地底人になりたいふたり~23時、チャラ王子と氷結王子は今日もシャベル片手に待ち合わせをしています~

 あれから三日経つ。
 ――なあ、今日は探索しないの? ポイントD、まだ途中じゃん。
 送ったメッセージに既読は点く。けど返信はない。
 ――もしかして調子悪いとか……? お前、大丈夫?
 あんまり学校を休むやつじゃなかったから気になって送ってみたけど、それにも返事はない。
 ――工藤、俺なんかした? ちゃんと話してってば。意味わかんない。
 戸惑いがどっぷりと沁み込んだ文章を細切れに送る。受け取ったというマークは灯るのに、返ってくる言葉はない。
 既読スルーってやつだ。でもなんで? これまですごく楽しかった。地底をふたりで目指すって共通の目的もあって、気持ちだって通ったって思ったのに。
 こうなった理由はやっぱり。
 ――キスのこと、もしかして気にし
 自席でそこまで入力してから俺は慌てて消す。
 気にしているのはあいつより絶対俺のほうだと思うし、気にしてないって言われても傷つきそうだ。
 はああっと息をつきながら、窓際に開いた穴みたいな空席を眺めていると、くいっと肩に腕が回された。
 文化祭で河童を熱演した片桐だ。
「なに、氷結王子いないと寂しいか、チャラ王子よ」
「そりゃそうだよー、あれだけ喧嘩するってもう完全にケンカップルだもん」
 片桐の彼女の飯野までこっちに寄ってくる。が、残念ながら今日の俺は笑顔を作れるテンションじゃない。
「なに、ケンカップルって」
「知らないの? 喧嘩ばっかりしてるカップルのことだよー」
 にこにこ顔の飯野に言い切られ絶句する。口を開ける俺の肩に腕を回したまま、片桐がげらげらと笑う。
「あー、確かに! お前らケンカップルじゃん。喧嘩してるとこしか見たことねえ」
「ち、違げえし」
 かろうじてそう言ったけど、声が不自然に揺れてしまった気がする。咳払いしてごまかし、俺はチャラさを総動員して笑ってやる。
「あいつが勝手に突っかかってくるだけ。俺は興味ねえっての」
「そうなの? 私、てっきりふたりって付き合ってるのかと思ってた」
「は?!」
 俺と片桐の声がハモる。目を見交わす俺達の様子に、飯野がくすくすと笑う。
「だってすごいお似合いじゃん」
「おにあい、ではないと思う、けど」
「だよなあ。こいつと工藤なんてお似合いじゃなくて、鬼と鬼の競演じゃん」
 ……おい片桐、それは言い過ぎだろうが。大体、あいつは鬼なんかじゃない。笑った顔はほんとに妖精みたいで……。
 なんて心の内でぶちぶちと言い返したことでますます落ち込んだ。
 あいつが学校を休む理由は絶対、こんな俺と会いたくないからだ。俺がまあまあ面倒なやつって思ったから。たかがキスくらいでこんなになっちゃうような。
「あ、あの、ごめんね、七音くん。気にしないでね。単なる女子のドリームだから。だってふたりともきらきら男子だし、付き合ってたら眼福って思っただけだから!」
「はあ」
 溜め息をついてみせはしたけど、飯野の言いたいこともわからないでもなかった。俺も工藤を見ては目が喜んでる~なんて思っちゃっている。
 ほんと、我ながら執着強すぎてキモい。
「でもさ、女子の妄想力ってたくましいよな。あんな喧嘩しまくってる姿見てガチで付き合ってるなんてなんで思えるんだよ」
 呆れた声で言いながら、なあ、と片桐が俺の肩に腕を回した状態で同意を求めてくる。まあな、と適当に笑う俺の顔を飯野が覗き込む。
「……なに」
「七音くん、気付いてなかったの?」
「だから、なにが」
「工藤くんってさ、七音くんのこと、いつも見てたよ? なんかほかの人を見るのとは違う顔で」
「天敵見る顔じゃねえの?」
「そういうんじゃないって。なんていうのかなあ、心配そうな顔、かなあ」
 工藤、が?
 ――穴掘ってるときのお前の顔、必死ですごくいいよ。なのに、なんで学校ではあんななの? 
 確かにあいつはそう言っていた。それはあいつが俺のことを普段からなんとはなしに見ていたってことではあると思う。でも心配そうな顔?
 飯野にわかっちゃうくらいの眼差しをあいつはしてたってこと? なんで……?
 ――丹羽としか行かないよ。
 そもそもあれってどういう意味だろう。なんであいつは俺としかなんて言った?
 地底世界へ行きたいやつなんていないから? そうかもしれない。でも俺は望んでしまっている。
 もし仮に俺以外の誰かが工藤に地底に一緒に行きたいと言ったとしても、丹羽としか行かないって突っぱねてほしいって。
「どした七音。顔色悪いけど」
「なあ、片桐って星名中出身だっけ」
 片桐の腕を振り払い、まっすぐに見つめてやると、なんでだか片桐がぽっと赤くなった。
「お、おう、そう、だけど。なに急に。告白は勘弁……」
「え、ちょっと! 彼氏がイケメンに迫られてる! 尊い!」
 飯野が騒いでいたがそれを無視し、俺は片桐の顔にぐいっと顔を近づけた。
「工藤の家、知んない?」
「はへ? 工藤ん家? えー、どこだっけ、確か菊塚西小学校の裏のアパートだったと思う」
 菊塚西。慌ててスマホを引っ張り出して検索すると、この間工藤が連れて行ってくれた神社の近くだった。
 ちらっと空席のままの工藤の席を見る。学校では会話なんて全然しない。そんな没交渉の関係なのにいないってだけでどうしてこうも俺の気持ちを抉るんだか。
 でも理由なんて関係ない。
 ……会いたい。
 くっきりと自分の心の中に浮かび上がった四文字を俺は奥歯で噛みしめながら放課後を待った。