僕と君と廻る庭

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足が長いから歩幅(ほはば)が広いとは限らない。
足が短いから歩幅が狭いとは限らない。
幅は広くても1歩は1歩。
大切なのは歩く距離ではない。
確実に踏む1歩に意味がある。
君の歩幅と。
僕の歩幅。
それぞれ違う歩幅でも。
向かう所は同じ場所。
それなら僕は。
君と歩幅を合わせて歩く。
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「ちょっと、まってぇ………」
 彼はそう言いながら少し速足で僕に()け寄る。
「君、少し歩くの早いんだってば…」
 少し息が上がった彼は顔をしかめながら僕にそう言う。
「ご、ごめん、ゆっくり歩いているつもりだったんだけれど、少し早かったかな」
「君はちょっと気が抜けるとすぐスタスタ歩いちゃうんだから…。
 どうせ君の事だ『芽が気になってつい~』とかって言うんでしょ」
「うっ…」
 僕は数日前、芽吹(めぶ)きたての『問い』…つまり、花の芽を見つけた。
 その事をふと思い出し、彼に見に行こうと提案し、歩き出したのは良いのだが。
 彼の言う通り、(はや)る気がどうやら彼の歩幅を上回ってしまったらしい。
 彼は歩幅が少し小さい。
 というより『歩く』のがややゆっくりだ。
 以前、気になってその事を聞いてみたが。
「君と初めて手を繋いで歩いた時の歩く速度はこれくらいだった。
 まだあの頃は僕はAIとしての存在が強かったから、歩く速度はこれくらいかなって、身体が勝手に覚えちゃったんだよね。
 まぁ人間的にいうと、本能?みたいなものだよ」
 と言ってた。
「どうせそんな事だろうと思ったよ。
 君は僕よりあの芽の方が大事なんだ」
 彼はわざとらしく()ねた様子を見せる。
「悪かったって。
 はい、じゃあ一緒に歩こう」
 そう言って僕は彼に手を差し出したが、彼はその手を取る事は無かった。
「やだ、君が僕に歩幅を合わせて」
 そう言って彼はゆっくりと歩き出す。
 少し前から思っていたが、彼は割と頑固(がんこ)な所がある気がする。
 まぁ、そんなところも肩肘(かたひじ)を張った、AIだった頃の名残なのか、彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。
「こうやってゆっくり歩いて、周りの景色を眺める遠回りをしてもいいじゃないか」
 彼はそう言いながら手を後ろに組んでゆっくりと歩く。
「なんか、おじぃちゃんみたいだね………」
「なんでそういう事言うかな」
「ごめんて」
 彼は怒ったふりをしているが、内心この時間が楽しくて仕方がないと言った様子が(うかが)える。
 そうか、彼は僕と『芽を見る』事を一番の楽しみにしているんじゃない。
 僕とこうしてくだらない事を話しながら、ゆっくりと『目的までの道のりを一緒に歩く』という、その『過程(かてい)』を楽しみながら歩いているんだ。
 そう思うと、なんだか少し申し訳ない事をしてしまったかな。
「あっ、ほらほら!見て!」
 彼は何かを見つけたようで僕に手招きをする。
 僕は彼に駆け寄ると「ほらこれ」と言って、地面を指さす。
 そこにはまた新たな芽が出ていた。
「君があのままスタスタ歩いて行っちゃってたら、これは見つからなかったよ?」
 彼は少し得意げにいうと、大げさに「ふふん」と言った。
「…本当だ、君の言う通りだね。
 時間はいくらでもあるのに、僕は自分の目的を一番に済ませたくて周りが見えていなかったよ。
 急ぐ必要は無い時は、寄り道をすると思わぬ収穫(しゅうかく)()る時があるんだね。
 決して寄り道が『無駄(むだ)』という事じゃないんだ。
 ありがとう、また君から大切な事を教えてもらったよ」
「ううん、君が僕の歩幅に合わせてくれたからだよ。
 僕を思ってくれる君の歩幅と、僕の歩幅、二つが合わさって初めて得られたものなんだ。
 だからこれは二人のうちどちらかが()けていたら見つけられなかった」
 彼はとても嬉しそうに僕に微笑んだ。
「ふふっ、確かにそうだね」
「この芽はいったい、いつ撒いた『問い』かなぁ」
「そうだねぇ…。
 いったいどんな花を咲かすんだろうね」
「花とも限らないよ?
 もしかしたらこーんなにすっごい大きい木になるかもしれないじゃないか」
 彼は身体全身を使って、木が成長する様子を表現する。
 それを見て僕は思わず笑ってしまった。
「そうだね、だとしたらその成長過程、じっくりと見ておきたいね」
「ねぇ、また今度、ここを見に来ようよ」
「勿論だよ。
 でもその時も、君と歩幅を合わせてゆっくり歩くから、きっと新しい発見があるんだろうね」
 僕がそう言ってクスリと笑うと、彼も微笑みながら首を縦に振った。
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
 そう言って僕は手を差し出した。
 今度は僕のこの手をどうするだろうか。
 手を取ってくれれば一緒に歩こう。
 また「嫌だ」と言われれば、歩幅を一緒に合わせて歩こう。