瞬夏終冬(しゅんかしゅうとう)

 秋を越し、静かに冬が通り過ぎ、空気が柔らかく緩み始め、ぼんやりと霞む月が空に懸かる春の夜。

 3月31日、午後8時。
 『YK』の公式チャンネルがおよそ3年ぶりに動き、新たな動画が追加された。

 タイトルは『(demo)』。

 事前に何の告知もなく唐突に公開された映像に映し出されていたのは、一枚のホワイトボードだ。決してキレイとは言えない筆跡で書かれた文字が並んでいる。

 人物は一切登場しない。
 音楽を奏でているのはアコースティックギターのみ。
 ゆったりとしたアルペジオで始まるメロディは、これまでの曲調にはなかった優しさを予感させるものだった。

『通知見て飛んできた。YK復活したの?』
『demoってどういうこと?』
『コラボ相手、誰?』
『ホワイトボードて(笑)ここどこだよ?』

 様々な疑問を含んだコメントが書き込まれる中、最も多かったのはこれだった。

『失恋ソング……じゃない!』

 動揺を隠せないのか、思ったままの言葉が次々と書かれていく。
『痛くて抉るような感じが好きだったのに』
『戻ってきてくれたのは嬉しいけど求めてるのはこういうのじゃない』
『休止してる間に何があった?』

 コメントの量は増え続ける。公開直後は戸惑う声が圧倒的に多かったが、時間が経つにつれ内容の質に変化が出てきた。

『こんな雰囲気の曲も作れるんだ』
『これは新しい扉開いちゃった感じなのでは』
『SNSで話題になってたから聴いてみたけど、嫌いじゃないかも』

 新しく書き込まれたコメントほど、好意的なものが多い。
 顔も知らないたくさんの人たちから寄せられる感想の海をたゆたいながらも、俺の頭の中にいたのはたった一人だった。

 聴けよ、周。
 俺が聴いて欲しいのはお前だけだからな。
 約束通り作ったぞ。

 祈るような気持ちで、俺はパソコンのモニターに映し出されている動画を眺める。

 これが俺の本心だ。