瞬夏終冬(しゅんかしゅうとう)

 空を覆う雲は厚く、窓の外は薄暗い。
 周はじっと動かずにいたが、手に込められていた力はかなり抜けてきた。呼吸も少しずつ緩やかになり、顔色も戻ってきたように見える。

「あのさ」

 横になったまま、こちらを見ないで周が話し始めた。

「昔、葉くん言ったよね。僕のこと『モテそう』て」
「……言ったよ」

 手の甲に触れる人差し指の動きは止めないまま、答える。

「どこがいいのか自分ではわかんないんだけどさ、友達が言うには僕モテるみたいなんだ。高校入ってからは女の子が周りにいつも寄ってきたし、告白されることも結構あって」
「俺、先見の明あったんだな」

 羨ましい話だと言い掛けて、止める。周の目が濁ったままだったから。

「断る度に周りから『もったいない』とか言われたけど、僕にとって女の子たちが向けてくる好意は嬉しくも何ともなくて、ただただ居心地が悪かった。だって僕は」

 たっぷりの間。
 遠くの壁を見ているようで何も見ようとしていない目。
 呼吸の度に上下する胸。
 言い掛けては飲みこむことを何度か繰り返した後、静かに周は言った。

「女の子をそういう対象に見ることが出来ない人間だから」

 あの日、初めて周と会った時に交わした言葉を思い出す。
 「僕が好きになる人は僕のことを好きにはならないと思うから」と言ったのは、そういうことだったのか。
 13歳の周は、既に気付いていたんだ。
 自分がマジョリティではないことを。

「付き合えない理由をハッキリ言えたら良かったんだろうけど、本当のことなんて言えないでしょ。断っても『じゃあ友達になってよ』とか言われて正直、ムカついた」

 腹の中に沈殿していたであろうわだかまりや負の感情が、呼吸の度に吐き出されていく。

「僕さ、いつも思ってたんだ。女の子が僕に向ける『好き』は周りから応援されることがほとんどなのに、どうして僕の『好き』は言葉にすることすらためらわれるものなのかなって。たとえダメだったとしても、女の子の場合は冗談で済ませたり、友達として関係を続ける道が残されてる。でも僕の場合は二度と元の関係には戻れないし、気持ち悪がられた上に縁を切られて話も出来なくなるかもしれないんだよ。普通の『嫌い』すら貰えない。だから、振られた後の選択肢が多い女の子たちはズルいと思ってた」

 周は自分の手に重なっている俺の手に視線を向けた。

「だからって僕が彼女たちを傷付けていい訳じゃないから、出来るだけ穏便にかわしてきたんだけど」

 俺と目を合わせないまま、周のひとり語りは続く。

「高2の1学期最後の日にさ、僕、女の子に襲われかけたんだよ」
「……え?」

 黙って聞いているつもりが、つい声が出てしまった。