ハズレ魔法【設計図】ただの紙切れしかだせない魔法などクソだと追放された転生貴族の九男坊~実は小人さんたちが寝てる間になんでも作ってくれる便利魔法だったので、魔の森で現代快適領地経営を始めます~

 「ふはぁ……」

 俺がゆっくりと瞼を開けると、視界はまだ暗かった。  
 あれ、まだ夜か? それとも教会の窓を全部塞いだんだっけか? 妙に体が重い。それに顔のあたりに温かくて柔らかい……こう、マシュマロを極限まで高密度にしたような何かが押し当たっている。

 周囲を確認しようと顔を左右に……う、動かん……

 ……ムニュッ……ムニュッ

 「ひゃんっ!?」

 突然、視界がパッと明るくなった。  
 暗闇の正体はリナのドデカい二つの山だったようだ。俺の顔を抱え込むようにして眠っていたリナが、驚いて飛び起きたのだ。

 「ふはぁ~~っ、し、しまったぁ~~! ブラン様より早起きして、愛情たっぷりご飯を用意するはずだったのにぃ!?」

 「こらリナ。俺は抱き枕じゃないぞ……あと、窒息死するかと思った」

 「えへへ、ごめんなさ~い! すぐに朝食の準備をしてきますね♪」

 リナはてへぺろと可愛く舌を出すと、そそくさと村の女性陣が集まっている一角へ駆けていった。  
 それを見守っていた年配の女性たちが、俺を見てニヤニヤしている。

 ……こりゃ早めに住宅問題も解決せんとな。
 プライバシーがないのは、領主としても一人の男としても死活問題だ。

 たしか、村の外れにボロボロになった領主館があると言っていた。まずはそこをリフォームするか、だが村民たちの住居も整えて……エアコン完備で床暖房とかつけちゃったりして、こうしてああしてグフフ…… 

 ―――って!

 いかん、妄想が楽しすぎてよだれ出そうになった……。
 が、そんな計画を練る前にまずは昨日頼んだ仕事の結果を確認だな。


 俺は村の男衆が集まっている教会の広間へと足を向けた。

 「おお、領主さま! 見てくれ、これっ! すごいですぜ!」

 村の戦士リーダー格の男であるガンチが、キラッキラに輝く剣をブンッと素振りしてみせた。一晩前までは刃こぼれだらけで錆びついていた鉄の棒が、今や一流の鍛冶師が数ヶ月かけて研ぎ澄ませたような名剣へと変貌を遂げている。

 「領主さま~オラの盾も見てくれよ! へこみも傷もなくなって、ピカピカの新品だぁ!」
 「おれっちの槍もだ! 重心がピッタリ合ってて、すごく扱いやすいぜ!」

 新しく生まれ変わった装備を手に、小躍りする有頂天な野郎ども。  
 彼らのテンションが上がるのも無理はない。武を重んじるアイザス家にいた俺から見ても、これだけの装備を揃えるのは難しいし相応の資金が必要だ。それが一夜にして揃ったのだから。

 ははっ、そりゃテンション上がるわな。

 にしても、小人さんたちの仕事ぶりは見事なもんだ。  
 素材そのものの密度を高め、より実用性に特化したカスタマイズが施されている。

 修復ではなく、生まれ変わりだなこりゃ。

 よし、これなら当面の戦闘には不自由しないだろう。

 だが、盛り上がる男たちから少し離れた隅っこで、どんよりとした空気を漂わせるグループがいた。

 「ううぅ……領主さま。おらたちのボウガンが、なんかよくわかんねぇ棒になっちまった……」

 肩を落としているのは、ボウガンや弓を専門にしていた五人のグループだ。彼らの前には、木と鉄でできた細長い棒が置かれていた。

 「おお、ちゃんと仕上がってるじゃないか! これだよ、これ!」

 俺が思わず声をあげると、五人はさらに困惑した顔をした。

 「ええぇ……。領主さま、おらたちは新しいボウガンが欲しかったんです。なのに、弦もなければ矢をつがえるところもない、ただの棒だなんて……」

 「ふふふ。いいかお前ら、こいつはただの棒じゃない。その名も―――ラスタール式三八歩兵銃だ」

 「はへぇ?? さんぱち?」
 「ほへじゅ??」

 「こいつはボウガンよりも遥かに遠くを射抜き、ボウガンよりも遥かに殺傷能力が高いんだ」

 そう、俺が現状だせる最大限のイメージを振り絞って出した【設計図】。軍服小人さんたちに作ってもらったのは、前世の日本が誇った名銃三八式歩兵銃をベースにした歩兵銃である。ボウガンから一気にグレードアップさせた結果がこれだ。

 ボウガンが置いてあった場所には、5丁の歩兵銃に弾丸と説明書が置いてあった。
 なんとか5丁作ってくれたようだ。ここらが現状、俺の限界値というところなのだろうか。剣や盾も作ったしな。

 「この棒が、ボウガンよりすごい……? 魔法の杖か何かですかい?」
 「ええぇ、おらにはよくわかんねぇですよぉ」

 「まあ、百聞は一見にしかずだ。外へ行くぞ」



 ◇◇◇



 俺はボウガン所持者だった5名を村の外れまで連れてきた。リナや、物珍しそうについてきた村民たちも遠巻きに見守っている。

 「よし、あそこの枝を落としてみるか」
 「へ? この棒でですかい?」

 一人が歩兵銃をブンブン振って、近くの枝に当てようとしている。

 「そうじゃない。あの木の枝だ」

 俺が指差したのは、ずっと先にある枯れ木の枝だ。距離にしておよそ300メートルといったところか。

 「へぇ? あんな遠くを? 領主さま、俺の手はそんなに長くないですよ」

 「ブラン様~~これって投げて当てる武器なんですか?」

 村民やリナも首を傾げている。この世界の常識では矢の有効射程距離は50~80メートル。それも相当な熟練者でなければ当たらない。飛ばすだけなら200メートルぐらいが限界か。

 「これは歩兵銃という飛び道具だ。この棒の先端から、目に見えないほどの速さで弾丸を発射する」

 俺は五丁の歩兵銃の横に置いてあった弾丸をみんなに分かるように見せた。小人さんたちが置いていった説明書によれば、中身は火薬ではなく魔石を特殊配合したものが詰まっている。引き金を引くことで魔力が炸裂し、その圧力で弾を撃ち出す仕組みだ。魔石さえあれば弾丸はいくらでも作れるらしい。

 「あ、あの~~領主さま、何言ってんですか?」
 「まあ実際にやってみれば分かる。名前は?」
 「俺はシュルトでさあ。んでこの棒をどうすればいんですかい?」

 「いいか、シュルト。俺と同じように弾丸を込めて構えろ。この根元にある穴と先端の突起に標準を合わせて……」

 俺はシュルトたちに基本的な構えを教え、弾丸を装填させた。  
 三八式歩兵銃がベースなので、弾丸5発装填のボルトアクション方式だ。ガチャン、という金属音が心地いい。

 「狙いを定めて……引き金を、ゆっくり引く」

 「へ、へぇ……」


 ――――――ダァーーンッ!!


 乾いた発射音が教会の周囲に響き渡った。

 「ひゃぁあああっ!? ぶ、ブラン様!?」
 「な、何だ!? 雷か!?」

 リナや非戦闘員たちが悲鳴を上げて飛び上がる。  

 だが、俺の射撃を見ていたシュルトたちの視線は一点に釘付けになっていた。

 「……ふ、ふぉおおお! き、木の枝が、消えた!?」
 「先端から出た弾が当たったべか……!?」
 「ウソだろ、おいら夢でも見てんのか……あんな遠くのが、一瞬で……!」

 見事に300メートル先の枝がへし折れていた。
 ちなみに俺の狙った木とは全く違うのが偶然に当たったことは内緒にしておく。

 うわぁ~~俺センスないのかな……ちょっとへこむ。
 だが俺自身が戦闘に強くなる必要はそこまでない。いかに領民たちを適材適所に配置するかが俺の仕事なのだ。ってことにしとこう……。

 偶然が俺の威厳を維持してくれたことに感謝だよ。

 「そして、このボルトを引くと使用した弾丸が出てくると同時に次弾が装填される」

 キンッ、と高い音を立てて使用済みの薬莢が飛びだしてくる。
 これがボルトアクション方式である。発射後にボルトを手動で操作して次の弾を装填する必要があるが、単発式は構造がシンプルで可動部が少なく、余計な摩擦やブレが生じにくくて極めて高い精度を出すことができる。

 「よし、シュルトやってみろ」

 シュルトが恐る恐るだが、弾丸を装填して引き金をひく―――

 ――――――ダァーーンッ!!

 「……な、な、なんじゃこりゃぁああ!」

 一発目は枝は落ちなかった。

 が二発目、三発目と撃つうちに彼の顔から驚きが消え、代わりに獲物を狙う猟師のような鋭い光が宿り始める。

 ――――――ダァーーンッ!!

 おお、見事なり。

 遠方の枝がボロっと落ちた。

 その様子を見て、他の4人もおぼつかない手つきで引き金を引いた。

 初めは驚きはしたものの、すぐに特性を知り枝に命中させはじめた。

 「ふぉおお~~す、すげぇええ!」
 「あんなに遠くの枝が!?」
 「おいら魔法使いになったみたいだ♪」

 ふむ、さすがは今までボウガンや弓を使っていただけのことはある。センスがあるな。
 俺よりは間違いなくあるぞ。

 「距離はあと倍は飛ぶぞ」

 「えええぇええ! これ以上遠くに飛ばせるんですかい!?」

 5人が再び驚愕の目をこちらに向けてきた。
 小人さんの説明書によると、この歩兵銃の有効射程距離は500~600メートル。訓練すれば領兵として大きな戦力になってくれるだろう。また狩猟などでも活躍してくれそうだな。

 「神様、おらたちとんでもねぇもんを授かっちまった……」

 シュルト以下の5人は、もはや「ただの棒」なんて呼ぶ者は一人もいなかった。  
 てか、なんか歩兵銃を立てて崇めはじめてる。

 「よし、シュルト。今日よりおまえ以下5名をラスタール歩兵銃部隊に任命する。魔物の襲撃に備えて訓練を積んでおくように」
 「へぇ、わかりやした領主さま!」

 彼らは愛おしそうに銃床を撫で、さっそく自主的に訓練を開始した。もともと遠距離攻撃が得意な連中だ。コツを掴むのは俺よりずっと早いだろう。

 とにかくこれで防衛力アップとなってくれればいいんだが。

 「ふふ、ブラン様はやっぱり凄いですね」

 リナが俺の袖をちょんと引っ張って、上目遣いで微笑んできた。

 「まあ、領主として最低限の備えをしただけだ。これでお前たちを守れる可能性が少しでも上がるなら安いもんだよ」

 「……あ。ブラン様、その腰にぶら下げているのは何ですか?」

 「ああ、こいつか」

 俺は帯剣した左とは反対の右腰のホルスターから、一丁の銃を引き抜いた。  
 シュルトたちの長物とは違う。片手で持てる中折れ式の回転式拳銃。

 「これは拳銃という小型の飛び道具だ。護身用だな」

 ベースは前世の第二次大戦で有名だったエンフィールド・リボルバーをベースに俺が【設計図】をイメージした。中折れ式が特徴のリボルバーで、本体をパカッと中から折り曲げるとシリンダーの中に六発の弾丸が綺麗に収まっている。

 エアコンは現代技術だが、兵器は第二次大戦あたりの技術ってことか。ここら辺の違いはよくわからんが。
 俺も成長すればもっと色々作れるようになるのだろう。


 「ついでに俺も少し試し撃ちをしておくか。リナ、危ないから離れてろよ」

 俺は20メートルほど先の木を狙った。  
 歩兵銃とは違い、こっちは有効射程距離は20~50メートルほど。この至近距離なら。

 俺はリボルバーを構え、引き金を絞った。

 ―――パンッ!

 歩兵銃よりは少し控えめな、だが鋭い発射音が響く。  

 俺が狙った木の……五本くらい隣の木の、さらに下にある小枝がポトリと落ちた。

 「わぁ~~っ! ブラン様すごいですぅ~~百発百中ですねぇ♪」

 「……ああ。ま、まあ、こんなもんだ」

 リナは完全に勘違いしたようだ。よかった、コミュ力お化けだが射撃の知識はなくて。

 にしてもだ……

 ……あかん。俺、マジで射撃の才能がない。  
 いや、いいんだ。リーダーの仕事は自分ができることじゃなく、できる奴を見つけることなんだから。うん、そういうことにしておこう。

 俺が本日二回目の自問自答を脳内で行っていると、村の外から叫び声が飛んできた。

 「領主さまぁああ! 大変だぁあああ!!」

 村の外で見張りに立っていた男が血相を変えて走ってくる。

 「ま、魔物です! 森の方から、魔物の群れがこっちに向かってきやがります! その数……10、いや、20はいます!」

 「……来たか」

 俺はリボルバーをホルスターに収め、村の男たちを振り返った。  
 そこには磨き上げられた剣を握り、ピカピカの盾を構え、そして最新鋭の歩兵銃を抱えた新生エド村の戦士たちが俺の号令を待っていた。

 「よし、野郎ども! 新生ラスタール領の初仕事だ。俺たちの快適な暮らしを邪魔する奴らには、熱いおもてなしをお見舞いしてやろうじゃないか!」

 「「「「おおおおおっ!!!」」」」

 教会の前に、かつてないほど力強い鬨の声が響き渡った。