俺の魔法【設計図】によって現れた小人さんたち。
「おおぉ……こ、これは、精霊様か!? 領主様が精霊様をお呼びになったのじゃ!」
カジル神父がその光景に驚愕して立ち上がる。子供たちは「かわいい~~」と大はしゃぎで、小人さんたちの後を追いかけ回している。だが、冷めた目の大人もまだ多い。
「ふう……いまさら神頼みしてもな……」
「ちょっと、あんた聞こえるよ」
「気休めにはなるんじゃないか? どうせ明日にはまたいつも通りの凍える朝が来るんだがな……」
まあ当然の反応か。
俺は何も言わずに、小人さんたちに設計図を託した。
作業着姿の小人さんたちは、設計図と俺が拾ってきた魔石を手に取ると、一人が「よし、やるぞ!」と言わんばかりに親指を立ててサムズアップ、二隊に分かれて綺麗に整列した。一隊は暖炉の周りにゾロゾロと移動を開始し教会の壁を登り始める。さらにもう一隊は屋外へと姿を消す。
よし、俺が今日やるべきことはこれで終りだ。
「リナ、寝よう。明日は忙しくなるかもしれん」
「えっ、あ、は~~い。おやすみなさい、ブラン様♪」
俺たちは教会の隅っこで眠りについた。
頭上からは、時折小さなドリルが壁を穿つ「キュイィィン」という音が心地よい子守唄のように響いていた。
◇◇◇
翌朝。俺は頬をなでるぬくもりを感じて目を覚ました。
リナも同じくして目覚めたようで、可愛い目をこすっている。そして、まわりからも声が聞こえ始めた。
「ふぁ……ん……? なんか暖かいな」
「ふぉ~~んん? たしかに……なんだ、この春のような空気は?」
「んん、なに寝ぼけてんだい。いつも通り寒く…………ない!?」
村人たちが一人また一人と起き上がり、ざわつき始める。
外は相変わらず寒空が広がっているのに、教会の空気は春の陽だまりのようにポカポカとしていた。
そして外から「ブォォォーン」という力強い、だが規則的な駆動音が聞こえる。
「ああ……おれっちもついに天に召されたか……そとからブーンとか変な音が聞こえるし」
「今度こそこんな地獄じゃなくて、天国で暮らせますように……」
寝ぼけた村民たちが困惑の声をあげる。祈り出すやつまでではじめた。
いや、ここはあの世じゃない。
ちゃんと生きてる。俺もリナも、そしてみんなも。
ブーンと元気に稼働している音は室外機の音だ。
そして暖炉のあった場所から天井に視線をあげると……
やっぱりか。
「ブラン様~~見てください、あれ!」
リナが指差した先。ボロボロだった暖炉のすぐ上の壁に、真っ白で無機質なだが頼もしい四角い箱が取り付けられていた。箱の下部からは暖かい風が絶え間なく吹き出している。
「わぁ~~りょうしゅさまのこびとさんが、まほうのあったかいはこつくってくれた!」
「すごいすごい~~さむくないよ~~あったか~~い♪」
好奇心旺盛な子供たちが箱の下に行って、直接熱風を浴びてキャッキャしている。
「ええぇ、なにこれ。火も使ってないのに、なんでこんなに暖かいの?」
「すげぇ……こんなに暖かい朝は生まれて初めてだ……」
村人たちが魔法の箱の前に集まり、拝むように手をかざしはじめた。
「ブラン様、こ、これはいったいどうしたですじゃ……?」
神父のカジルが目を丸くして俺の方に駆け寄って来た。
「ああ、これはエアコンという道具だ。冬は暖かい空気を、夏は冷たい空気を吐き出してくれる」
俺はエアコンの横に設置された電源を確認した。
そこには魔石が乾電池のような形で装填されており、小人さんたちの技術によって効率よくエネルギーへと変換されているようだ。予備の魔石乾電池もいくつかよこに積まれていた。
「すげぇ……」
「魔法……本物の魔法だ……」
「てかこんな魔法、聞いたこともないよ」
「ああそうだ。これが俺の唯一使える魔法【設計図】だ」
「りょ、領主さまの魔法……」
「う、うわああ、領主さますげぇ……」
「天才魔法使いだ……」
昨日まで絶望と蔑みに満ちていた大人たちの目が、驚きとそして微かな希望の色に染まっていくのがわかった。
朝を快適に起きる。当り前なことだがそれすら叶わない者たちもいる。まずは第一歩だ。変えていくためのはじまり。
「……ブラン様。疑ってしまい、申し訳ございませんでした」
カジル神父が、深々と頭を下げる。
なにを疑っていたのかは敢えて聞く必要はない。
「いいよ。言葉だけじゃ信じられないのは当然だ。俺がここの領主となる以上、村の便宜を図るのは当然のこと……さて、まずは寒さをしのぐ手段はできた」
そして俺の魔法について、前回と今回でなんとなく分かってきたぞ。
まず、設計図がないと小人さんたちは動いてくれない。
そして設計図はある程度のイメージさえできれば補完はしてくれる。ガチの製造業者なみの知識までは要求されない。
次に作る元となる材料が必要。前回ならぼろいマクラ、今回なら老朽化した暖炉だ。
イメージとしてはグレードアップしてくれるみたいな感じだろうか。
さらに動力が必要なものに関しては、魔石から必要な仕組みを作ってくれる。
いや、便利だわこれ。
「りょ、領主さま……」
「今度こそ見捨てないんですかい?」
おっと、自分の世界に浸ってしまっていた。
不安そうな顔をみせる村民たちに、俺は静かに口をひらいた。
「当たり前だ。俺はここの領主だ」
それまで俺を警戒していた大人たちも、気まずそうにけれど感謝を込めた目で俺を見ている。
実家ではゴミのように捨てられた魔法が、ここでは命を救う希望になる。
俺は拳を握り直し、エアコンの温風を背に受けた。
ハズレ魔法? 紙切れしか出せない無能? 笑わせてくれる。
この魔法【設計図】とやる気満々の小人さんたちがいれば、この最果ての地獄を最高の楽園にリフォームすることだって出来るぞ。
なんだよこの魔法、めっちゃ楽しいじゃないか。
……たまらん。
これはたまらんぞ。
俺は必要なものを好きに作る。
あとはみんなが使ってくれればそれでいい。
「さあ、リナ。本格的に忙しくなるぞ!」
「はいっ! どこまでもお供します~~ブラン様♪」
俺たちの領地経営は、この魔法の温風とともにその第一歩を踏み出した。
「おおぉ……こ、これは、精霊様か!? 領主様が精霊様をお呼びになったのじゃ!」
カジル神父がその光景に驚愕して立ち上がる。子供たちは「かわいい~~」と大はしゃぎで、小人さんたちの後を追いかけ回している。だが、冷めた目の大人もまだ多い。
「ふう……いまさら神頼みしてもな……」
「ちょっと、あんた聞こえるよ」
「気休めにはなるんじゃないか? どうせ明日にはまたいつも通りの凍える朝が来るんだがな……」
まあ当然の反応か。
俺は何も言わずに、小人さんたちに設計図を託した。
作業着姿の小人さんたちは、設計図と俺が拾ってきた魔石を手に取ると、一人が「よし、やるぞ!」と言わんばかりに親指を立ててサムズアップ、二隊に分かれて綺麗に整列した。一隊は暖炉の周りにゾロゾロと移動を開始し教会の壁を登り始める。さらにもう一隊は屋外へと姿を消す。
よし、俺が今日やるべきことはこれで終りだ。
「リナ、寝よう。明日は忙しくなるかもしれん」
「えっ、あ、は~~い。おやすみなさい、ブラン様♪」
俺たちは教会の隅っこで眠りについた。
頭上からは、時折小さなドリルが壁を穿つ「キュイィィン」という音が心地よい子守唄のように響いていた。
◇◇◇
翌朝。俺は頬をなでるぬくもりを感じて目を覚ました。
リナも同じくして目覚めたようで、可愛い目をこすっている。そして、まわりからも声が聞こえ始めた。
「ふぁ……ん……? なんか暖かいな」
「ふぉ~~んん? たしかに……なんだ、この春のような空気は?」
「んん、なに寝ぼけてんだい。いつも通り寒く…………ない!?」
村人たちが一人また一人と起き上がり、ざわつき始める。
外は相変わらず寒空が広がっているのに、教会の空気は春の陽だまりのようにポカポカとしていた。
そして外から「ブォォォーン」という力強い、だが規則的な駆動音が聞こえる。
「ああ……おれっちもついに天に召されたか……そとからブーンとか変な音が聞こえるし」
「今度こそこんな地獄じゃなくて、天国で暮らせますように……」
寝ぼけた村民たちが困惑の声をあげる。祈り出すやつまでではじめた。
いや、ここはあの世じゃない。
ちゃんと生きてる。俺もリナも、そしてみんなも。
ブーンと元気に稼働している音は室外機の音だ。
そして暖炉のあった場所から天井に視線をあげると……
やっぱりか。
「ブラン様~~見てください、あれ!」
リナが指差した先。ボロボロだった暖炉のすぐ上の壁に、真っ白で無機質なだが頼もしい四角い箱が取り付けられていた。箱の下部からは暖かい風が絶え間なく吹き出している。
「わぁ~~りょうしゅさまのこびとさんが、まほうのあったかいはこつくってくれた!」
「すごいすごい~~さむくないよ~~あったか~~い♪」
好奇心旺盛な子供たちが箱の下に行って、直接熱風を浴びてキャッキャしている。
「ええぇ、なにこれ。火も使ってないのに、なんでこんなに暖かいの?」
「すげぇ……こんなに暖かい朝は生まれて初めてだ……」
村人たちが魔法の箱の前に集まり、拝むように手をかざしはじめた。
「ブラン様、こ、これはいったいどうしたですじゃ……?」
神父のカジルが目を丸くして俺の方に駆け寄って来た。
「ああ、これはエアコンという道具だ。冬は暖かい空気を、夏は冷たい空気を吐き出してくれる」
俺はエアコンの横に設置された電源を確認した。
そこには魔石が乾電池のような形で装填されており、小人さんたちの技術によって効率よくエネルギーへと変換されているようだ。予備の魔石乾電池もいくつかよこに積まれていた。
「すげぇ……」
「魔法……本物の魔法だ……」
「てかこんな魔法、聞いたこともないよ」
「ああそうだ。これが俺の唯一使える魔法【設計図】だ」
「りょ、領主さまの魔法……」
「う、うわああ、領主さますげぇ……」
「天才魔法使いだ……」
昨日まで絶望と蔑みに満ちていた大人たちの目が、驚きとそして微かな希望の色に染まっていくのがわかった。
朝を快適に起きる。当り前なことだがそれすら叶わない者たちもいる。まずは第一歩だ。変えていくためのはじまり。
「……ブラン様。疑ってしまい、申し訳ございませんでした」
カジル神父が、深々と頭を下げる。
なにを疑っていたのかは敢えて聞く必要はない。
「いいよ。言葉だけじゃ信じられないのは当然だ。俺がここの領主となる以上、村の便宜を図るのは当然のこと……さて、まずは寒さをしのぐ手段はできた」
そして俺の魔法について、前回と今回でなんとなく分かってきたぞ。
まず、設計図がないと小人さんたちは動いてくれない。
そして設計図はある程度のイメージさえできれば補完はしてくれる。ガチの製造業者なみの知識までは要求されない。
次に作る元となる材料が必要。前回ならぼろいマクラ、今回なら老朽化した暖炉だ。
イメージとしてはグレードアップしてくれるみたいな感じだろうか。
さらに動力が必要なものに関しては、魔石から必要な仕組みを作ってくれる。
いや、便利だわこれ。
「りょ、領主さま……」
「今度こそ見捨てないんですかい?」
おっと、自分の世界に浸ってしまっていた。
不安そうな顔をみせる村民たちに、俺は静かに口をひらいた。
「当たり前だ。俺はここの領主だ」
それまで俺を警戒していた大人たちも、気まずそうにけれど感謝を込めた目で俺を見ている。
実家ではゴミのように捨てられた魔法が、ここでは命を救う希望になる。
俺は拳を握り直し、エアコンの温風を背に受けた。
ハズレ魔法? 紙切れしか出せない無能? 笑わせてくれる。
この魔法【設計図】とやる気満々の小人さんたちがいれば、この最果ての地獄を最高の楽園にリフォームすることだって出来るぞ。
なんだよこの魔法、めっちゃ楽しいじゃないか。
……たまらん。
これはたまらんぞ。
俺は必要なものを好きに作る。
あとはみんなが使ってくれればそれでいい。
「さあ、リナ。本格的に忙しくなるぞ!」
「はいっ! どこまでもお供します~~ブラン様♪」
俺たちの領地経営は、この魔法の温風とともにその第一歩を踏み出した。

