アクシラの身体から噴き出す、濃密で圧倒的な青い魔力。
肌を刺すような極低温の冷気が周囲に吹き荒れ、足元のコンクリートが白く凍りついていく。
彼女にこんな魔力があったのか……
俺がその圧倒的な光景に目を見張っていると、隣に立つセバロがポツリと呟いた。
「……ブラン様。アクシラお嬢様は元々、王都でも稀に見るほど優れた氷魔法の使い手だったのです」
「だった……?」
「はい、ある出来事がきっかけでご自身の力に蓋をされたのです」
そう短く言葉を発したセバロ。
メガネの奥の瞳が少しばかり熱くなっているように見える。
「ですが……」
「どうした?」
「どうやら、あなたがその凍てついた心を溶かすきっかけになったようですな」
「俺が……?」
聞き返そうとしたが、その声はアクシラから放たれた眩い光の奔流にかき消された。
彼女を中心に渦巻いていた青い魔力が、パキパキと硬質な音を立てながら無数の美しくも鋭く輝く結晶へと姿を変えていく。その光景は、戦場の硝煙の中に咲いた奇跡の結晶のようだった。
「―――その青き結晶を以て、我が領域を侵すものを拒絶せよ!」
アクシラが凛とした声を響かせ、天に向けていた両手を教会へ急降下していく巨大なワイバーンへと力強く突き出す。
「――――――凍結広範囲防壁《アイシクルイージス》!!」
ドンッッ!!
大気が激しく震動した。
次の瞬間、救護施設である教会の前方の空間に、無数の巨大な氷の結晶が猛烈な勢いで組み上がり、またたく間に分厚く巨大な氷の防壁が教会全体を囲んだ。太陽の光を浴びて青白く輝くその半円形のドームは、文字通り絶対的な拒絶の意志そのものだった。
「ギュララァアアア!!」
教会を狙って突撃してきていたワイバーンの親玉は、急に現れた氷の防壁をよけきれず正面衝突する。
――――――ズウウウンッッッ!!!
巨大な質量と質量が激突する、凄まじい衝撃音が響き渡る。
しかし、アクシラが全力で展開した氷の防壁は、怪物の凄まじい突進のエネルギーを完全に受け止め、ピッと僅かな亀裂を入れただけでビクともしなかった。
そして、あまりの硬度に衝撃を吸収しきれなかったワイバーンの親玉の方が、弾かれざまに地表に身体を強打して「ギャウウウウッ!?」と悲鳴を上げる。
すごい。あの体当たりを防いだぞ!
「はぁ……っ、ふぅ……」
魔法の発動を確認した直後、アクシラは張りつめた糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
「おっと、大丈夫かアクシラ」
俺は彼女の華奢な身体を両腕でしっかりと抱きとめた。
その身体はトクトクと脈打っており、かなり無理をしたということが感じられる。
「凄いぞ、アクシラ。見事に教会を守りきったな」
「はい……よかっ……た……」
アクシラは満足そうに微かに微笑むと、そのまま俺の胸の中でぐったりと目を閉じた。すべての魔力を完全に使い果たして肉体的にも消耗しきったのだろう。
本当に良く頑張った……
このまま領主館に連れ帰って、ゆっくり休んでもらいたいところだが。
「――――――ギュギュラァアアア!!」
しかし、戦場はまだ俺たちに息をつく暇を与えてはくれなかった。氷の防壁に阻まれ、獲物のいる教会を襲えないと理解したワイバーンの親玉が、激しい怒りに目を血走らせながら今度はその矛先をこちらへと明確に向けてきたのだ。
氷壁との激突で血を流しながらも、その巨体を震わせ凄まじい殺意をたぎらせて迫ってくる。
「シュルト! 88ミリ砲で、あのワイバーンの親玉を狙い撃てぇええ!!」
俺は地表に向かって声を張り上げた。
「領主様ぁああ! ダメでさぁ! 砲身が熱すぎる!!」
「何だと!?」
「これ以上撃ったら薬室の中で砲弾が暴発しちまう! 砲身が真っ赤でさぁ!!」
くそっ……酷使しすぎたか……
毎分10発から15発という驚異的なハイペースで、あれだけの数の砲弾を連続して撃ちまくり続けたのだ。いかに優れた88ミリ高射砲(アハト・アハト)をベースにしているといえども、一時的に連発が続けばどうしても限界以上の高熱状態となり、冷却のための時間を置かなければならなくなる。
だが、シュルトたちを責めることなんて絶対にできない。彼らがあそこまで死に物狂いで連続射撃を繰り返してくれなければ、とっくの昔にこの村の戦線は崩壊していただろう。
やはり無茶をしてでも、もう一門作っておくべきだったか……悔やんでも始まらないが、最悪のタイミングでのオーバーヒートだった。
頭を抱えている場合じゃない。
「歩兵銃部隊、弓部隊! 応戦できる者は、あのデカブツに攻撃を集中させろ!」
俺は必死に指示を飛ばしたが、88ミリ高射砲の弾幕が止まったことにより残っていた他のワイバーンたちの猛攻がさらに激化していた。
前線の兵士たちのほとんどは、目の前の敵に対応するだけで完全に手一杯であり、親玉への応戦に回るだけの精神的・物理的な余裕は残されていない。
「グルギュラァアアア!!」
親玉ワイバーンが、巨大な翼を広げてこちらに突撃してくる。
俺はぐったりとしたアクシラを、コンクリート壁の陰へと優しく横たえた。そして腰から剣を引き抜き、同時にホルスターから拳銃をひっこ抜く。
「セバロ、アクシラを頼んだぞ。俺があいつの足止めをする」
「何をおっしゃいますか、ブラン様。このセバロめも、どこまでもお供いたしますぞ」
老執事はそう言って、不敵な笑みを浮かべながら愛用の三八式歩兵銃をカチャリと構え、俺の斜め後ろにピタリと並んだ。
相手は人の何重にもデカい怪物だ。
だが、そんなことは関係ない。なんとかするしかないのだ。
最後まであがいてやる。
死を覚悟し奥歯をガチリと噛み締めて腹をくくった俺の袖を、不意にクイクイと引っ張る者がいた。
「ブラン。ようはあの緑色の弾をワイバーンに当てればいいんじゃな?」
見ればエルフの族長ホトナが、細い腕をブンブンと力任せに振り回しながら、どこか気の抜けた口調でやる気になっていた。
え?
なにをするつもりなんだ? このエルフは。
肌を刺すような極低温の冷気が周囲に吹き荒れ、足元のコンクリートが白く凍りついていく。
彼女にこんな魔力があったのか……
俺がその圧倒的な光景に目を見張っていると、隣に立つセバロがポツリと呟いた。
「……ブラン様。アクシラお嬢様は元々、王都でも稀に見るほど優れた氷魔法の使い手だったのです」
「だった……?」
「はい、ある出来事がきっかけでご自身の力に蓋をされたのです」
そう短く言葉を発したセバロ。
メガネの奥の瞳が少しばかり熱くなっているように見える。
「ですが……」
「どうした?」
「どうやら、あなたがその凍てついた心を溶かすきっかけになったようですな」
「俺が……?」
聞き返そうとしたが、その声はアクシラから放たれた眩い光の奔流にかき消された。
彼女を中心に渦巻いていた青い魔力が、パキパキと硬質な音を立てながら無数の美しくも鋭く輝く結晶へと姿を変えていく。その光景は、戦場の硝煙の中に咲いた奇跡の結晶のようだった。
「―――その青き結晶を以て、我が領域を侵すものを拒絶せよ!」
アクシラが凛とした声を響かせ、天に向けていた両手を教会へ急降下していく巨大なワイバーンへと力強く突き出す。
「――――――凍結広範囲防壁《アイシクルイージス》!!」
ドンッッ!!
大気が激しく震動した。
次の瞬間、救護施設である教会の前方の空間に、無数の巨大な氷の結晶が猛烈な勢いで組み上がり、またたく間に分厚く巨大な氷の防壁が教会全体を囲んだ。太陽の光を浴びて青白く輝くその半円形のドームは、文字通り絶対的な拒絶の意志そのものだった。
「ギュララァアアア!!」
教会を狙って突撃してきていたワイバーンの親玉は、急に現れた氷の防壁をよけきれず正面衝突する。
――――――ズウウウンッッッ!!!
巨大な質量と質量が激突する、凄まじい衝撃音が響き渡る。
しかし、アクシラが全力で展開した氷の防壁は、怪物の凄まじい突進のエネルギーを完全に受け止め、ピッと僅かな亀裂を入れただけでビクともしなかった。
そして、あまりの硬度に衝撃を吸収しきれなかったワイバーンの親玉の方が、弾かれざまに地表に身体を強打して「ギャウウウウッ!?」と悲鳴を上げる。
すごい。あの体当たりを防いだぞ!
「はぁ……っ、ふぅ……」
魔法の発動を確認した直後、アクシラは張りつめた糸が切れたようにその場に崩れ落ちる。
「おっと、大丈夫かアクシラ」
俺は彼女の華奢な身体を両腕でしっかりと抱きとめた。
その身体はトクトクと脈打っており、かなり無理をしたということが感じられる。
「凄いぞ、アクシラ。見事に教会を守りきったな」
「はい……よかっ……た……」
アクシラは満足そうに微かに微笑むと、そのまま俺の胸の中でぐったりと目を閉じた。すべての魔力を完全に使い果たして肉体的にも消耗しきったのだろう。
本当に良く頑張った……
このまま領主館に連れ帰って、ゆっくり休んでもらいたいところだが。
「――――――ギュギュラァアアア!!」
しかし、戦場はまだ俺たちに息をつく暇を与えてはくれなかった。氷の防壁に阻まれ、獲物のいる教会を襲えないと理解したワイバーンの親玉が、激しい怒りに目を血走らせながら今度はその矛先をこちらへと明確に向けてきたのだ。
氷壁との激突で血を流しながらも、その巨体を震わせ凄まじい殺意をたぎらせて迫ってくる。
「シュルト! 88ミリ砲で、あのワイバーンの親玉を狙い撃てぇええ!!」
俺は地表に向かって声を張り上げた。
「領主様ぁああ! ダメでさぁ! 砲身が熱すぎる!!」
「何だと!?」
「これ以上撃ったら薬室の中で砲弾が暴発しちまう! 砲身が真っ赤でさぁ!!」
くそっ……酷使しすぎたか……
毎分10発から15発という驚異的なハイペースで、あれだけの数の砲弾を連続して撃ちまくり続けたのだ。いかに優れた88ミリ高射砲(アハト・アハト)をベースにしているといえども、一時的に連発が続けばどうしても限界以上の高熱状態となり、冷却のための時間を置かなければならなくなる。
だが、シュルトたちを責めることなんて絶対にできない。彼らがあそこまで死に物狂いで連続射撃を繰り返してくれなければ、とっくの昔にこの村の戦線は崩壊していただろう。
やはり無茶をしてでも、もう一門作っておくべきだったか……悔やんでも始まらないが、最悪のタイミングでのオーバーヒートだった。
頭を抱えている場合じゃない。
「歩兵銃部隊、弓部隊! 応戦できる者は、あのデカブツに攻撃を集中させろ!」
俺は必死に指示を飛ばしたが、88ミリ高射砲の弾幕が止まったことにより残っていた他のワイバーンたちの猛攻がさらに激化していた。
前線の兵士たちのほとんどは、目の前の敵に対応するだけで完全に手一杯であり、親玉への応戦に回るだけの精神的・物理的な余裕は残されていない。
「グルギュラァアアア!!」
親玉ワイバーンが、巨大な翼を広げてこちらに突撃してくる。
俺はぐったりとしたアクシラを、コンクリート壁の陰へと優しく横たえた。そして腰から剣を引き抜き、同時にホルスターから拳銃をひっこ抜く。
「セバロ、アクシラを頼んだぞ。俺があいつの足止めをする」
「何をおっしゃいますか、ブラン様。このセバロめも、どこまでもお供いたしますぞ」
老執事はそう言って、不敵な笑みを浮かべながら愛用の三八式歩兵銃をカチャリと構え、俺の斜め後ろにピタリと並んだ。
相手は人の何重にもデカい怪物だ。
だが、そんなことは関係ない。なんとかするしかないのだ。
最後まであがいてやる。
死を覚悟し奥歯をガチリと噛み締めて腹をくくった俺の袖を、不意にクイクイと引っ張る者がいた。
「ブラン。ようはあの緑色の弾をワイバーンに当てればいいんじゃな?」
見ればエルフの族長ホトナが、細い腕をブンブンと力任せに振り回しながら、どこか気の抜けた口調でやる気になっていた。
え?
なにをするつもりなんだ? このエルフは。

