「―――砲撃、はじめぇえええええ!!」
俺の叫びと同時に、シュルトが全力で発射ペダルを踏み込んだ。
――――――ズガァアアアンッッ!!!
地響きを伴う大轟音がラスタールの空に炸裂する。
黒鉄の長い砲身が力強く後方にスライドし、砲口からは空を貫く砲弾が飛びだした。周辺の空気が一瞬で引き裂かれ、猛烈な衝撃波を伴った爆音が周囲の大気を震わせる。
88ミリ高射砲より放たれた砲弾。それは音速を超えたまさに超高速の巨大な弾丸だ。
大気を切り裂き、咆哮を上げながら、目にも留まらぬ速度で上空へと吸い込まれていく砲弾。中世ファンタジー世界の住人であるワイバーンたちにとって、自らに向かって飛んでくる攻撃とは目に見える矢か、あるいは目視可能な魔法攻撃程度だったはずだ。
それすらも、そもそも届かないことがほとんど。
だが、この88ミリ高射砲から放たれた超音速の砲弾は、彼らに回避する暇すら許さなかった。
密集した群れを組んで、油断しきっていたワイバーンの先頭集団。そのど真ん中で、放たれた初弾がドンピシャのタイミングで大炸裂を起こした。
―――ズゴォオオオオ!!
遥か上空で、凄まじい爆発が巻き起こる。爆発の凄まじいエネルギーと四方八方へと高速で飛び散った無数の鋼鉄の破片が、密集していた空の怪物たちを容赦なく引き裂いた。
「ギャギャ~~~ス!?」
「ギャガッ!?」
「グエッゴ、ギィイイイ!!」
悲鳴とも絶叫ともつかぬ、鼓膜を刺すような怪物の鳴き声が遅れて響き渡る。
爆発の直撃を食らった先頭の2頭が絶命したのであろう。操り人形の糸を切られたかのように真っ逆さまに地表へと墜落していく。
さらに、爆風の衝撃を至近距離で浴びたもう1頭が、片方の翼をズタズタに引き裂かれ、よろめきながら必死に羽ばたこうとするが、そのまま戦列を離れて斜めに落ちていった。
一瞬の出来事。
たった一発。
文字通りたった一発の砲撃で、空の支配者たるワイバーン3頭が戦闘不能に陥ったのだ。
外壁の上でそして地表で見守っていた領民たちから、地鳴りのような歓声が上がる。
―――だから言っただろう。
お前たちが「人間の攻撃など届かない安全な場所だ」と高を括ってニヤついていたその空は、すでに俺たちの有効射程範囲にどっぷりと入っているんだよ。
この、ラスタール88ミリ高射砲のな。
「さあ、どっちが狩られる側か、この一戦でハッキリと決めようじゃないか!」
ついに、ド辺境ラスタール領エド村と、空の暴君ワイバーンたちによる、歴史的な決戦の火蓋が切って落とされた。
「シュルト! どうだ、新しい砲弾の具合は!!」
俺は外壁から身を乗り出し、地表で指揮を執るシュルトに向かって声を張り上げた。
「最高でさぁ~~領主様!!」
彼らが手際よく次弾として薬室へ送り込んでいるのは、弾頭部分が鮮やかな「緑色」に塗装された大口径の砲弾。
これは、前回のレッドボア戦で使用した白色(榴弾:着発信管)でも、対空訓練で使っていた黄色(榴弾:時限信管)でもない。
今朝がた小人さんたちの手によって完成したばかりの、出来立てほやほやの新砲弾―――通称VT信管(近接信管)を備え付けた最新鋭の対空榴弾である。
VT信管(近接信管)とは、砲弾が目標に直接命中しなくても目標の一定距離内に接近したことをセンサーが感知し、自動的に空中炸裂させる起爆装置である。
これまでの黄色(時限信管)は、事前に測量した距離から「何秒後に爆発させるか」を計算し、タイマーをいちいちセットして撃たなければならなかった。本来なら凄まじい訓練と職人芸的な勘が必要になる、極めて難易度の高い代物だ。だからこそ昨日まではシュルトも頭を抱えていた。
だが、この緑色(榴弾:近接信管)へと大幅にグレードアップしたことで、その面倒なプロセスはすべて過去のものとなった。
「領主さま、これなら狙ったところに撃てばいい。分かりやすいですさぁ~!」
「よし、そのまま攻撃を続行だ!」
「了解でさぁ~~野郎ども、出し惜しみすんじゃねえぞ! ガンガンいくぞぉおおお!!」
シュルトから力強いガッツポーズが送られてくる。
よし、いける。
俺は胸の中で熱い手応えが広がっていくのを感じた。新型砲弾、本当に間に合ってよかったぜ。
――――――ズガァアアアアン!
――――――ズガァアアアアン!
――――――ズガァアアアアン!
次々と薬室に砲弾が装填され、間髪入れずに発射される。
流れるように繰り返されるその一連の動作は、見ていて惚れ惚れするほどだ。これは小人さんのマニュアルを片手に、彼らが昼夜を問わず必死に訓練を重ねてきた、努力の賜物だ。
エド村の人々にとって、これまでただ怯えて蹂躙されるしかなかったワイバーンという絶対的な絶望に対し、自らの手で対抗できるというこの可能性は、命を賭けるに値するとてつもなく大きな希望の光なのだろう。
「ふむ、素晴らしいですな。ブラン様のお作りになったあの大砲、たった一門しか存在しないというのに、まさに獅子奮迅の活躍ですな」
隣に立つセバロが、歩兵銃を構えたまま感心したように細い目をさらに細めた。
「ああセバロ、初戦はこちらの思惑通りだ」
これを成しえたのは、彼らの息の合った連係プレイと、88ミリ高射砲そのもののスペックの高さだ。
音速を超える圧倒的な初速、遥か高空まで届く射程の長さ。さらに砲自体の軽量性と扱いやすさ。合わせて小人さん製による命中率のさらなる向上。
そんな高スペックの塊であるこの砲の強みは、それだけではない。
「おらぁあ~~~バンバン撃ちまくれぇええ!!」
シュルトの威勢のいい怒号が戦場に響き渡る。
そう、彼の言う通り「撃ちまくれる」のだ。
この大砲は、毎分10~15発という驚異的なハイペースでの連続発射速度を誇る。
高射砲の命中率はそもそもが低い。
だから命中せずに終わる砲撃も多いのだが、発射速度でそれをある程度カバーすることができる。
青空の至る所で、緑色の砲弾が次々と開花するように黒い爆煙を上げ、そのたびにワイバーンたちの悲鳴が響き巨大な影が空から叩き落とされていった。
交戦開始からしばらく経った頃。
88ミリ高射砲による容赦のない対空弾幕により、あれほど空を埋め尽くしていたワイバーンの数は、50頭から25頭とおよそ半数にまでその数を減らしていた。
「ブラン様、ワイバーンどもの動きが変わりましたな……」
セバロが鋭い声で告げる。
「ああ、わかっている。ここからが本当の正念場だ」
ワイバーンたちもバカではなかった。密集していれば一発でまとめて吹き飛ばされると学習したのだろう。彼らはエド村の上空へと到達した瞬間、一塊になるのをやめ四方八方へとバラバラに散開し始めたのだ。
標的が分散したことで、一門しかない高射砲だけではすべての敵を捉えきれなくなる。
「ギュシャァアア!!」
「ギャシィイイイ!!」
散らばったワイバーンたちが、その大きな翼を畳み牙を剥き出しにしながら、外壁や地表に向けて次々と猛烈な勢いで急降下を開始した。奴らの得意戦法である、空中からの「ヒット&アウェイ」の強襲攻撃だ。
「歩兵銃部隊、狙えぇええ! 散らばった奴らを各個撃破するんだ!」
セバロの指揮のもと、増員された15名の歩兵銃部隊が一斉に銃身を動かした。
――――――ダァーーンッ!
――――――ダァーーンッ!
――――――ダァーーンッ!
外壁の上と地表から、三八式歩兵銃の乾いた銃声が連続して鳴り響く。
エルフの銃手たちも負けてはいない。驚異的な動体視力を持つエルフたちは、すさまじい速さで急降下してくるワイバーンの頭部や翼の付け根を的確に捉え、その肉体に確実に鉛の弾丸を撃ち込んでいく。
「われも働くぞぉお~~肉をたらふく食わせてもらった恩は、絶対に忘れんのじゃ~~」
ホトナが叫びながら、手持ちの矢を引いたのちグッと手放す。その矢じりは容赦なくワイバーンの片目を撃ち抜いていた。
さらにやをつがえて、次々と次弾を放つホトナ。
矢の速度も速く、ワイバーンの皮膚に当たるとずぶりと深く食い込んでいる。
「すげぇな、ホトナ。おまえ力持ちなのか?」
「なにを言うとるかブラン。精霊の加護を発動しておるのじゃ」
「精霊?」
「そうじゃ、肉の精霊じゃ!」
うん、何言ってるのかよく分からん。
今は心強い味方がいる。
それだけで、良しとしよう。
だが、残ったワイバーンたちによる必死の攻撃もまた、熾烈を極めた。
従来のヒット&アウェイ戦法だけでなく、中には激しい銃撃に狂暴化し、外壁の上にそのままドスンと巨大な体を着地させ、そこに居座って長い尻尾や鋭い爪を振り回して暴れ狂う個体まで現れ始めたのだ。
戦場は、敵と味方が入り乱れる大乱戦へと突入した。
俺の叫びと同時に、シュルトが全力で発射ペダルを踏み込んだ。
――――――ズガァアアアンッッ!!!
地響きを伴う大轟音がラスタールの空に炸裂する。
黒鉄の長い砲身が力強く後方にスライドし、砲口からは空を貫く砲弾が飛びだした。周辺の空気が一瞬で引き裂かれ、猛烈な衝撃波を伴った爆音が周囲の大気を震わせる。
88ミリ高射砲より放たれた砲弾。それは音速を超えたまさに超高速の巨大な弾丸だ。
大気を切り裂き、咆哮を上げながら、目にも留まらぬ速度で上空へと吸い込まれていく砲弾。中世ファンタジー世界の住人であるワイバーンたちにとって、自らに向かって飛んでくる攻撃とは目に見える矢か、あるいは目視可能な魔法攻撃程度だったはずだ。
それすらも、そもそも届かないことがほとんど。
だが、この88ミリ高射砲から放たれた超音速の砲弾は、彼らに回避する暇すら許さなかった。
密集した群れを組んで、油断しきっていたワイバーンの先頭集団。そのど真ん中で、放たれた初弾がドンピシャのタイミングで大炸裂を起こした。
―――ズゴォオオオオ!!
遥か上空で、凄まじい爆発が巻き起こる。爆発の凄まじいエネルギーと四方八方へと高速で飛び散った無数の鋼鉄の破片が、密集していた空の怪物たちを容赦なく引き裂いた。
「ギャギャ~~~ス!?」
「ギャガッ!?」
「グエッゴ、ギィイイイ!!」
悲鳴とも絶叫ともつかぬ、鼓膜を刺すような怪物の鳴き声が遅れて響き渡る。
爆発の直撃を食らった先頭の2頭が絶命したのであろう。操り人形の糸を切られたかのように真っ逆さまに地表へと墜落していく。
さらに、爆風の衝撃を至近距離で浴びたもう1頭が、片方の翼をズタズタに引き裂かれ、よろめきながら必死に羽ばたこうとするが、そのまま戦列を離れて斜めに落ちていった。
一瞬の出来事。
たった一発。
文字通りたった一発の砲撃で、空の支配者たるワイバーン3頭が戦闘不能に陥ったのだ。
外壁の上でそして地表で見守っていた領民たちから、地鳴りのような歓声が上がる。
―――だから言っただろう。
お前たちが「人間の攻撃など届かない安全な場所だ」と高を括ってニヤついていたその空は、すでに俺たちの有効射程範囲にどっぷりと入っているんだよ。
この、ラスタール88ミリ高射砲のな。
「さあ、どっちが狩られる側か、この一戦でハッキリと決めようじゃないか!」
ついに、ド辺境ラスタール領エド村と、空の暴君ワイバーンたちによる、歴史的な決戦の火蓋が切って落とされた。
「シュルト! どうだ、新しい砲弾の具合は!!」
俺は外壁から身を乗り出し、地表で指揮を執るシュルトに向かって声を張り上げた。
「最高でさぁ~~領主様!!」
彼らが手際よく次弾として薬室へ送り込んでいるのは、弾頭部分が鮮やかな「緑色」に塗装された大口径の砲弾。
これは、前回のレッドボア戦で使用した白色(榴弾:着発信管)でも、対空訓練で使っていた黄色(榴弾:時限信管)でもない。
今朝がた小人さんたちの手によって完成したばかりの、出来立てほやほやの新砲弾―――通称VT信管(近接信管)を備え付けた最新鋭の対空榴弾である。
VT信管(近接信管)とは、砲弾が目標に直接命中しなくても目標の一定距離内に接近したことをセンサーが感知し、自動的に空中炸裂させる起爆装置である。
これまでの黄色(時限信管)は、事前に測量した距離から「何秒後に爆発させるか」を計算し、タイマーをいちいちセットして撃たなければならなかった。本来なら凄まじい訓練と職人芸的な勘が必要になる、極めて難易度の高い代物だ。だからこそ昨日まではシュルトも頭を抱えていた。
だが、この緑色(榴弾:近接信管)へと大幅にグレードアップしたことで、その面倒なプロセスはすべて過去のものとなった。
「領主さま、これなら狙ったところに撃てばいい。分かりやすいですさぁ~!」
「よし、そのまま攻撃を続行だ!」
「了解でさぁ~~野郎ども、出し惜しみすんじゃねえぞ! ガンガンいくぞぉおおお!!」
シュルトから力強いガッツポーズが送られてくる。
よし、いける。
俺は胸の中で熱い手応えが広がっていくのを感じた。新型砲弾、本当に間に合ってよかったぜ。
――――――ズガァアアアアン!
――――――ズガァアアアアン!
――――――ズガァアアアアン!
次々と薬室に砲弾が装填され、間髪入れずに発射される。
流れるように繰り返されるその一連の動作は、見ていて惚れ惚れするほどだ。これは小人さんのマニュアルを片手に、彼らが昼夜を問わず必死に訓練を重ねてきた、努力の賜物だ。
エド村の人々にとって、これまでただ怯えて蹂躙されるしかなかったワイバーンという絶対的な絶望に対し、自らの手で対抗できるというこの可能性は、命を賭けるに値するとてつもなく大きな希望の光なのだろう。
「ふむ、素晴らしいですな。ブラン様のお作りになったあの大砲、たった一門しか存在しないというのに、まさに獅子奮迅の活躍ですな」
隣に立つセバロが、歩兵銃を構えたまま感心したように細い目をさらに細めた。
「ああセバロ、初戦はこちらの思惑通りだ」
これを成しえたのは、彼らの息の合った連係プレイと、88ミリ高射砲そのもののスペックの高さだ。
音速を超える圧倒的な初速、遥か高空まで届く射程の長さ。さらに砲自体の軽量性と扱いやすさ。合わせて小人さん製による命中率のさらなる向上。
そんな高スペックの塊であるこの砲の強みは、それだけではない。
「おらぁあ~~~バンバン撃ちまくれぇええ!!」
シュルトの威勢のいい怒号が戦場に響き渡る。
そう、彼の言う通り「撃ちまくれる」のだ。
この大砲は、毎分10~15発という驚異的なハイペースでの連続発射速度を誇る。
高射砲の命中率はそもそもが低い。
だから命中せずに終わる砲撃も多いのだが、発射速度でそれをある程度カバーすることができる。
青空の至る所で、緑色の砲弾が次々と開花するように黒い爆煙を上げ、そのたびにワイバーンたちの悲鳴が響き巨大な影が空から叩き落とされていった。
交戦開始からしばらく経った頃。
88ミリ高射砲による容赦のない対空弾幕により、あれほど空を埋め尽くしていたワイバーンの数は、50頭から25頭とおよそ半数にまでその数を減らしていた。
「ブラン様、ワイバーンどもの動きが変わりましたな……」
セバロが鋭い声で告げる。
「ああ、わかっている。ここからが本当の正念場だ」
ワイバーンたちもバカではなかった。密集していれば一発でまとめて吹き飛ばされると学習したのだろう。彼らはエド村の上空へと到達した瞬間、一塊になるのをやめ四方八方へとバラバラに散開し始めたのだ。
標的が分散したことで、一門しかない高射砲だけではすべての敵を捉えきれなくなる。
「ギュシャァアア!!」
「ギャシィイイイ!!」
散らばったワイバーンたちが、その大きな翼を畳み牙を剥き出しにしながら、外壁や地表に向けて次々と猛烈な勢いで急降下を開始した。奴らの得意戦法である、空中からの「ヒット&アウェイ」の強襲攻撃だ。
「歩兵銃部隊、狙えぇええ! 散らばった奴らを各個撃破するんだ!」
セバロの指揮のもと、増員された15名の歩兵銃部隊が一斉に銃身を動かした。
――――――ダァーーンッ!
――――――ダァーーンッ!
――――――ダァーーンッ!
外壁の上と地表から、三八式歩兵銃の乾いた銃声が連続して鳴り響く。
エルフの銃手たちも負けてはいない。驚異的な動体視力を持つエルフたちは、すさまじい速さで急降下してくるワイバーンの頭部や翼の付け根を的確に捉え、その肉体に確実に鉛の弾丸を撃ち込んでいく。
「われも働くぞぉお~~肉をたらふく食わせてもらった恩は、絶対に忘れんのじゃ~~」
ホトナが叫びながら、手持ちの矢を引いたのちグッと手放す。その矢じりは容赦なくワイバーンの片目を撃ち抜いていた。
さらにやをつがえて、次々と次弾を放つホトナ。
矢の速度も速く、ワイバーンの皮膚に当たるとずぶりと深く食い込んでいる。
「すげぇな、ホトナ。おまえ力持ちなのか?」
「なにを言うとるかブラン。精霊の加護を発動しておるのじゃ」
「精霊?」
「そうじゃ、肉の精霊じゃ!」
うん、何言ってるのかよく分からん。
今は心強い味方がいる。
それだけで、良しとしよう。
だが、残ったワイバーンたちによる必死の攻撃もまた、熾烈を極めた。
従来のヒット&アウェイ戦法だけでなく、中には激しい銃撃に狂暴化し、外壁の上にそのままドスンと巨大な体を着地させ、そこに居座って長い尻尾や鋭い爪を振り回して暴れ狂う個体まで現れ始めたのだ。
戦場は、敵と味方が入り乱れる大乱戦へと突入した。

