電話
そして数日後、また電話した。
ちょうどその頃、この街での仕事が見つかり、ほのかな希望が灯っていた。
この街で、自分らしく生きていけるかもしれない。
その光を、彼に伝えた。
別れたことを納得させ、友達として繋がっていければいいかと自分を説得していた分、気負いがなく、自然体で話せた。
また彼の声を聞けて、また繋がれたという安堵と嬉しさが重なり、私はとても明るく、軽やかだった。その高揚感を覚えている。
そんな私の様子を見て、彼はなぜか目を潤ませていた。
そして、言葉が滑るように零れた。
「私の街に来ようかな」
別れたことを後悔している、やり直したい。
今の仕事より、二人の未来を優先したい。一緒の未来がいい——そう言ってくれた。
「おじさんのために働きたくない」
「君のいない世界で、何をしたらいいかわからない」
その言葉を、私は信じた。ここが最後の砦になるだろうと感じていたから。
「いいよ、おいで。私も仕事が見つかったし、しばらくは君が仕事を見つけるまで、私のところに住めばいい」
私は、彼をWelcomeした。
計画
それから、二人で将来のことを話し合った。どう生きるのがいいのか。何が二人のためになるのか。
まずは、ここに至るまでの行き違いを整理する必要があった。
私はもう、想像の中だけで生きることはできなかった。現実的な計画が必要だった。
恋に盲目では、もういられない。
これまで何度も、彼は心を変えてきた。その度に私の心は振り回され、擦り切れそうになった。
彼は「ごめん」と言う。でも、謝罪には変化が伴わなければ意味がない。
二人の歩調を合わせる。あなたと私から、もう一度「私たち」を作り直す。
まずは、感情を見せ合うこと。彼に伝えた。
「君が感情を見せるのは、君にとっても、私にとっても、必要なことなんだよ」
毎回、彼の決断に私ばかりが感情的になり、私だけが二人の関係を気にかけているように感じた。
でも、そうじゃない。君も何度も傷ついている。その傷を、私に見せてほしい。
それを見たら、私だけじゃなく、君も私たちを大切にしていたんだと分かるから。
遠距離なら、隠せば隠せる。「寝る」「忙しい」——それだけで済ませてしまえる。
話す必要がある時、お互いを感じる必要がある時、それを避けていた。
これを変えていこう。
干渉し、心配し、気にかけ、お互いを知るために質問し合う。
そして、責任とは、車や家を買うことじゃない。
責任の全ては決断にある。
「私のために決断できる? 私たちのために決断できるほど、私のことを知っている?」
なぜ私たちは一緒にいるのか——それを忘れないように、抱きしめて言おう。
覚悟を決めて。
もう、あなたを盲目的に信じるだけの可愛い子は、ここにはいない。
現実を積み重ねようと必死な、一人の女がいるだけだ。
私の覚悟
私にも、変えなければならないところがたくさんある。
彼と別れてから、彼なしでどんなキャリアを築くか考えていた。
もっと世界を探索し、人に会い、したかった仕事をして、駆け回る未来も見えた。
なのに、その世界は、彼との世界より小さく見えた。
私の心を一番動かすのは、彼だ。
彼は私の人生を、一番思い出深いものにしてくれる。
仕事は不特定多数を対象とする。教師と生徒の関係のように、存在感は大きくても、対象は多い。
でも彼は、「たった一人」だ。私の人生に一番大きな影響を与えられる人。
だから、私にとって仕事は成長するための道具だけど、
何のために成長したいか——それは、彼との人生のために成長したいからだと気づいた。
彼に追いつき、彼が私に追いつけるように。
それに、もし家族や子どもができたら、彼らのためにも。
どれだけ素敵なんだろう。
「君」って言うけど、君というパートナーと一緒に成長して、そして家族や周りの人たちのために生きるのがいいなって感じる。自分だけの成長には、限界がある気がするから。
ドラマで「両親、妻、子ども——これだけが人生の核だ」という言葉があった。
彼と、そんな風に生きていきたい。
彼にとって、彼の国と家族が大きな一部であることはわかっている。
私は決して彼から彼らを奪おうとしているんじゃない。
彼らが彼の「永遠の家」なのはわかっている。ただ、私も彼のHomeの一つになりたい。
これから、私たちがお互いを愛している姿を見せて、彼の両親をもっと喜ばせる機会を作っていきたい。
だから、将来の計画を立てた時、全て数年後には彼の国に行くプランを前提にしていた。
それが、私の覚悟だ。
私にも両親がいる。一人娘だ。
彼の国では男の子が重視されるが、私の国では娘は宝物で、守られる存在。
私の家族は私を自立させてくれたけど、それが標準じゃない。
それでも最後には彼の国に行く——その計画を立てたことを、彼にも、彼の家族にも理解していてほしかった。
私ばかりが彼を考えるのは疲れる。
彼も彼の家族も、私の側の事情をわかってほしい——そう思っていた。
たった一人でありたい
彼は心のタンスに、女の子たちをしまって、大切にしている。
でも私は、その一部にはなりたくない。
ずっと更新され続ける、たった一人でありたい。
分かち合えなくても、寄り添い合える。
「あなたが逃したのは一人の人間だと思っているが、実はもう一つの人生を逃したのだ」
これは過去、彼がSNSで見つけて送ってきてくれた言葉だ。同感だと言って。
私を選んでくれること、私が彼を選ぶこと——それは、どんな人生を選ぶかだ。
二人とも同じ人生を選びたいと今思っていることは奇跡だ。
しかも、彼から「一緒の未来がいい」と言い出してくれた。
私が泣きついたわけじゃない。彼が歩み寄ってくれたから。
だから私は、必死にその想いを守ろうと思った。
結婚手続き
未来を語るなら、現実を知らなければ。
彼と結婚するために必要な手続きを、私は調べた。
必要な書類は多い。パスポート、戸籍抄本、そして結婚公証書の和訳など、翻訳が必要な書類も。
手続きはまず彼の国で行い、その後私の国に提出する流れらがスムーズならしい。
結婚届の提出と登録に約3ヶ月。
そこから彼の国で配偶者ビザを取得するのに、3~4ヶ月。
配偶者ビザは一年。その後、更新なのか、永住なのか、情報は少なく、不透明だ。
結婚式から半年、ビザ発給まで半年。
順調に進んでも、全ての手続きが完了するまで一年は、それぞれの国を行き来する生活になるだろう。
国際結婚の壁は高い。でも、それは障害じゃない。私たちが進んで受ける挑戦だ。
二人で受けて立ち、乗り越えていく。
壁がたくさんあることはわかっている。
私はベストな女の子ではないかもしれない。でも、唯一の女の子でいたい。
彼に、私だけが与えられるものがあると信じている。
四つのプラン
エクセルを使って、二人が思い描く可能性を整理した。2030年までの計画。
プランA【今を生きる】:ビザが切れるまでこの街で同居。私はアルバイトをしながら母国の職を探し、彼は私の国言葉を猛勉強。その後、少なくとも二年は私の国へ。
→ すぐ一緒になれるが、履歴書の空白期間と蓄えのなさという不安定さが代償。
プランB【遠距離】:彼は彼の国で二年働き、貯金とキャリアを築く。私はこの街で一年過ごした後、彼の国へ行き、彼の国の言葉を学びながら現地に溶け込む。その後、二人で私の国での生活を始める。
→ 遠距離が延びる苦しみと引き換えに、彼の実績と私の言語習得という確かな糧を得る。
プランC【不完全な妥協】:彼は彼の国で一年だけ働き、私の国へ来る。
→ 私のキャリアは守られるが、彼の語学力不足と将来の不安定さが残る。
プランD【奇跡みたいな】:彼が今すぐ私の国で職を得て、すぐに同居。
→ 可能性は低く、不確実性に満ちている。
彼はこれらのプランを示し、「一緒に住みたいから、この街に来るという考えが強くなっている」と言った。
彼の口から出る言葉は確かに変わった。曖昧さが減り、具体性を帯び始めた。
私自身、夢の中にいるような感覚を抱えつつも、しっかりと「私たち」で未来を描こうとしていた。
このプランA〜Dは今のプラン。
結局数年後は、彼の国に戻ること。昔あった彼らの家族の中に入ること。彼らと一つの家庭を作ること。それを最後には夢見てた。
魂の居場所
日々、多くの人と関わり、笑い合う。
でも、会話が弾めば弾むほど、彼がいないことが際立つ。
私の魂が彷徨い始める。
彼は、私の魂が休息する唯一の場所だ。
お互いを恋しく思い、今この場所で過ごす時間を十分に噛み締められないもどかしさ。
だから、私たちの最優先事項は明白だった。
彼の言う通り、一緒に住むことを第一の目標に据える。
家族
具体的な話をした。
結婚の法的ハードル、精神的覚悟、文字通り一つになるための覚悟。
家族への伝え方も。
まずはビデオ通話で、両親に「私たち」として向き合おうと。
彼の両親には私の想いを、私の両親には彼の誠実さを伝え、理解と許可を得る。
結婚式は、貯金がないから盛大にはできない。
でも、せめて祖母にはウェディングドレスの写真を見せたい。
「あんたが結婚するまでは死ねんね」——物心ついた時からずっとそう言ってくれた祖母と一緒に、家族写真も撮りたい。
親の介護についても。あと数年は両親も働いている。
彼らが定年するまでに、私たちの生活を安定させられればいい。
子供については、彼の国のビザや保険が不透明だから、私の国で出産する可能性もある。
教育も、彼の国では受験競争が激しい。彼も「子供をそんな環境に置きたくない」と言う。
ならば、子供が小学生になるまでにどこに定住するか、一緒に考えよう。
それまでは、二人とも行き来できるよう、相手の言葉を勉強し合おうと約束した。
愛なんて知らなくて、結婚なんて無理だと思っていた私に、
「子どもっていいな」とまで思わせたのは、紛れもなく彼だった。
これら紙の上の計画は、単なる選択肢じゃない。
それは、私たちが未来を掴もうとする意志の証。
不安と希望が交錯する、現実そのものだった。
これを全部話した後、彼は言った。
「なんで君は、こんなに優しいんだ」
彼は、泣いてた。
そうだね。
もし私がこれほど忍耐強くなくて、「もう知ったことか」と終わらせていたら、
今こんな会話もしていない。彼は家族に言われるがままの道を歩いていたかもしれない。
私がいるからこその、余分な勇気と余分な選択肢を、私は彼に与えているのかもしれない。
でも、彼から「一緒に住みたい」と言ってくれたから。
私はその想いを、大事に胸に抱えて、一歩ずつ歩いていく。
