スクープ!《学校に棲みつく動物2匹と、姿を消した生徒の行方》

 高校1年生の頃、スポーツが得意だった俺はサッカー部に入った。放課後、テスト期間ではない日は常にグラウンドで部活に励んでいた。

 その頃は縁とはまだクラスが違ったから存在すら認識していなかった。
 ある時グラウンドでカメラを構えて空を撮る縁を見かけた。

 いつも1人で行動しているらしい彼は如何にも根暗そうな男の子で、猫背がよく目立つ人だった。
 
 空を見上げている時は背筋をピンと伸ばして、堂々としている。シンプルにあの時、カッコいいと思った。

 しかし話しかけようとすれば視線に気づいた縁はそそくさと教室に戻ってしまうし、俺も練習を抜けるわけにはいかなかったのでその背中を見送るしかなかった。

 それから、登下校する縁の姿を見かけるようになる。写真部だからなのか基本首からカメラをかけていていつでも構えることが出来るようになっている。

 登校中に気になった空や道端の花を撮る後ろ姿。彼が誰かと話すところは見たことないけれど、表情を見る限り寂しそう、とは思わず充実していると思った。

 彼の世界に俺が無理に割り込む必要はない。

 わかってはいたけれど。邪険にされると予想していたけれど。

 その充実した世界に、俺も交ぜてほしいと思った。思ってしまった時に、俺はクラスではそれなりに人気で、サッカー部で充実しているはずなのに満たされていないのかと気付く。

 それなりに楽しい毎日を送っているはずなのに。

 試しに見様見真似でスマホで空を1枚撮ってみる。綺麗だとは思う。でも、肉眼の方が綺麗。一眼レフだと、どのように映るのだろう。技術も必要なのだろうけど。
 花壇に植えられている小さな花々が咲き誇っていて綺麗だなと思って写真を撮る。でも、イマイチ綺麗に撮れない。

 うんうん唸って角度とか調整して撮っていれば「何してんの」と当時から連んでいた田沼に声をかけられる。

「あ、うん。写真撮ってみようと思って」
「そんな陰キャくんっぽいことするなって〜! 神山は、もっと派手に遊んでる方が似合うからさ!」
「陰キャくん?」
「ほら、あそこで写真撮ってる根暗そうな奴」

 田沼が指差した方を見ると縁も同じように花壇で写真を撮っていた。俺たちの視線に気付くとハッとしたように教室に戻って行ってしまう。野生動物みたいだ。

「邪魔しちゃったかな……」
「神山があんな奴気にする必要ないって! それよりさ〜、この後カラオケ行かね?」

 田沼に肩を組まれ花壇から離れさせられる。俺カラオケとか、煩い空間あまり好きじゃないんだけど。まあいいかと思いながら「いいよ」と言う。

 縁が撮った写真がどんなものだったか気になったものの、今の俺には見る手段が無かった。





 *





 写真部が撮った写真が定期的に廊下に飾られると知ったのはすぐ後だった。それまで、俺は眼中になどなく素通りしていたのだろう。

 飾られている写真を眺めていく。

 空や近くの商店街。羽を広げる瞬間の小鳥。一瞬を逃さずに捉えている。瞬きしている間に飛び立ってしまいそうなものなのに。

 文化部は大人しい生徒が多いとてっきり思っていたが、案外辛抱強い人が多いのかもしれない。俺が知らない世界だった。

 廊下をゆっくり歩き続けて、立ち止まる。

 青空と、花と、蜜蜂。

 蜜蜂が花にキスをしているようだった。

 綺麗だと、素直に思った。

『神谷 縁』

 かみや えん。

 俺の神山と言う名字と近い。
 来年は同じクラスになれないだろうか……と密かに願いながら。

「縁、ねえ。陰キャなのに変な名前だよね」

 いつの間にか隣に来ていた田沼が言う。

「変?」
「神山が縁って名前だったらかっこいいなあって思うよ? だけどあの陰キャくんでしょ? コミュ障な人とは1番遠い名前じゃない?」

 可笑しそうに笑っているけれど。
 そこで笑うのは違うかな、と思った。
 縁。人との繋がりを大事にする言葉だった。彼の両親が大事に付けた名前だ。

 田沼と一緒に笑えたら俺は陽キャだったのだろう。
 だけど魅力的な名前だと思った。その繋がりに、今の俺は入ることが出来ないとも感じる。

 笑わない俺に田沼は「お前も少し可笑しいけどな」と言いながら俺を残して歩いていく。

 数日後、俺はサッカー部を抜け、新聞部に入った。