スクープ!《学校に棲みつく動物2匹と、姿を消した生徒の行方》

「……怪異が」
「いるな」
「どうやって……屋上へ行く?」

 怪異は人間を見つけると勢いよく走ってくるという。今まではずっと廊下を徘徊していたが。

 今は図書室の前からずっと動かない。
 まるで僕たちを待ち伏せしているようだった。

「……もしかして、みんな怪異に呑み込まれてしまったのかな……」
「それか、俺たちを阻止しようとしているのか……」

 僕たちは何か特別な武器があるわけではない。どうしようかと悩んでいれば僕の体が青白く光り出す。そして慧護の体も青白く光る。

 お互いの体を見て。

「……慧護くん。頭と腰に、狐の耳と尻尾が生えてる……」
「縁、も……。狸のふさふさの耳と尻尾が生えてる……」

 周りを見渡す。狐と狸はいない。
 ……つまり、2匹が僕たちの体に〝憑依〟して力を貸してくれている……ということか。

「目の前に怪異がいるけど……今なら突破出来そうな気がする」

 体は駆け抜けることを望んでいる。
 しかし、心は。僕自身は。

 今にも腰が抜けてしまいそうに気圧されていた。呼吸が震える。それでも。

「行こう、縁!」

 慧護が僕をリードしてくれる。逃げ遅れないように僕の手を握って声をかけてくれた。返事をする余裕はなかった。ただ握ってくれた右手を強く握り返す。

 慧護が扉を開け、一目散に怪異のそばを駆け抜ける。僕はただ、足を引っ張らないように、転ばないように。必死に足を動かして慧護に着いていく。

 背後で怪異が僕たちを振り返り追いかけようとする気配。次第にどちゃとちゃと追いかけてくる音。

 怪異は階段の上り下りはゆっくりだと聞いたが人を大勢丸呑みしたことで力がついたのか勢いは弱まらないまま着いてくる。

 はあはあと呼吸しながら、屋上を目指す。三階に辿り着いた。怪異はすぐ後ろにいる。

「……わ!」

 足がもつれて階段で転んでしまう。「縁!」と慧護が駆け寄り僕を起き上がらせようとするけど……脛を思い切り打ちつけてしまったのか痺れて動けない。

 怪異の恐ろしい唸り声が真後ろから聞こえる。慧護の手を掴む僕の右手の力を……緩めた。

「慧護くん、逃げて」
「……何言ってるんだ! 立て! 早く!」
「う、動けない……慧護くんだけでも」
「──くそ!」

 僕は食べられる。怪異が口を大きく開ける音。途端に腐敗臭。ぎゅうっと目を閉じせめて一思いに丸呑みしてくれ──とその時を待っていたら、僕に覆い被さる温かな体。

「縁は、駄目だ!」

 怪異が目の前にいるのに。僕に覆い被さって睨みつけているのは慧護だった。人間からは出ないような「シャーッ」という唸り声。僕を守るように出される手は、狐のような鋭い爪が生えている。

 慧護諸共(もろとも)食べようとした時、バチバチッと結界が現れ阻止される。しかし怪異も結界に何度も体当たりをしてくる。

 ドォン! ドォン!

「……縁。今のうちに。立てるか?」
「う、うん……」

 慧護はずっと僕を助けてくれている。
 田沼のように誰かを置き去りにしたり、身代わりにさせようとはしていない。だから尚更、僕も慧護は食べられてほしくないという気持ちが強くなる。

 慧護の体はどんどん元の姿に戻っていく。……憑依する時間は限られているのか。僕の体も狸の尻尾や耳は消えていく。

「まずい、早くしないと──」

 慧護が呟いた側から結界がガラスのようにバリン、と大きな音を立てて壊れた。その衝動は強く、校舎が大きく揺れ慧護は怪異の側を転げ落ちて下の階の廊下に倒れる。

 僕は踊り場に突っ立ったまま。

 怪異もダメージが大きいのかしばらく動かない。

 力尽きたのか僕の隣には狐がぐったりとしていて動かない。慧護の側にも狸がぐったりとしている。

 慧護は狸を抱え上げ、踊り場にいる僕を見上げる。

「縁、このまま屋上を目指せ!」
「け、慧護くんは⁉︎」
「怪異を引き寄せる! 撒いたら大きな木がある箇所を探して石を置くから! 縁は屋上を頼んだ!」
「ま、待って──」

 慧護の負担が大きい。
 しかし慧護は僕に親指を立てたあと、三階の先にある階段には登らず、廊下に出る。

 怪異が起き上がる。僕の存在を確認する前に慧護が落ちていた人間の一部を怪異に投げて振り向かせる。

「こっちだ!」

 怪異に慧護の存在を確認させてから、一目散に廊下を走る。

 怪異は慧護を追いかけていく。

 静寂。
 僕だけの呼吸。

 1人になってしまった。

 いや、僕が屋上に確実に行けるように慧護が動いた。

「……急がないと」

 手に持っている光る石と、ぐったりしている狐を抱きながら最上階を目指す。