君が忘れた物語

 瑚子を買い物に誘い、その時間に感覚的には成功の手応えを感じていた俺は、満足気な心持ちで瑚子と帰路についていた。

 のだが。まさかの事態、展開に俺はたじろいでいた。

 「嫌だったらいいんだけど」

 そんなどう考えても警戒してしまうような枕詞を置いて、瑚子は続けた。

 「この近くにお父さんの職場があって、そろそろ仕事が終わるから、そのまま帰りに車で送ろうか?って言われたんだけど、どうかな?」

 本数の少ない電車を駅近の公園のベンチに座って待っていた俺と瑚子は、親から受信したらしいメッセージを確認すると、俺にそう提案してきた。

 「えっと、それは、お父さんの運転する車に乗せてくれる上に送ってくれるってこと?」

 異性の同級生のお父さんに会うこと以上に、男子中高生にとってハードルの高いイベントはあるだろうか。なんて思いつつ、それでもさらに仲良くなれるチャンスだと意を決していると、瑚子の次の言葉は、そのハードルすらも超えてきた。

 「そうなんだけど、それだけじゃなくて、うちで夜ご飯食べていかないかって、お母さんが。なんか、もう奏多の分も考えて作り始めちゃってるらしくて……」

 いきなりでごめんね、なんて申し訳なさそうに両手を合わせる瑚子の姿を見つつ、断る選択肢をなくした俺は、もはやどうにでもなれという思いでその提案に乗ることにした。

 自分の家族との距離感すら測りかねている俺が、人様の、それも異性の同級生の家族と一緒に食卓を囲むだなんて、大丈夫かなと漠然とした不安を抱えながら瑚子のお父さんの車を待つのだった。