チン、と不思議な音を立てて扉が開く。
外に出てみれば、確かにそこは崖の上だ。転移魔法でもなんでもなく、説明された通り、単純に箱状の部屋が上下に動いているだけの仕組みらしい。上下に動いているだけ、か。
箱いっぱいに詰め込んだ重量のある荷を、同じ速度で運びきる耐荷重性能。
音も振動もほとんどない緻密な構造。そもそもの動力も不明ときている。
あんなものは、説明されたようで、すべてを秘匿されているのと同じだ。
「オルブライト様、素晴らしい技術ですね。ステラロード王国もやるものです、侮れませんよこれは」
心の底から驚きを隠せないといった表情で、一緒に乗っていた部下のひとりが嬉しそうにする。
阿呆なのか、こいつは。あえてそうしているのなら別だが、本当に圧倒されて驚いていますなどという顔をするものではない。侮ってくださいと言っているようなものだろうに。
「そうですね。あなたはクビです。よかったですね、これでゆっくりとその素晴らしい技術とやらを見て回れるでしょう?」
「え? は? なん、そんな……」
「今まで、どうもありがとうございました」
顎で他の部下に指示を出す。部下のひとりが鞄からいくらかの硬貨が入った袋を取り出して、男にひょいと投げた。
まったく忌々しい。勇ましく吠えるだけの獣共が、どこで余計な知恵をつけたのやら。
取るに足らない島国ではあるが、落としにくいのは確かだ。
狭苦しい港と断崖絶壁。認めたくはないが、力のある魔法使いも何人かいる。力押しで制圧できないとは思わないが、費用対効果が悪すぎる。
それならそれで、やりようはあった。ゆっくりと経済的に、国際的に追い詰めてやればいい。
ステラロード王国が得意とする農産物や、乳製品などの類似品を安価でさばき、取引相手を少しずつ奪っていった。悟られることなく、ほとんど包囲は完成していたのだ。
仕上げに持ち掛けた同盟という名の餌に、大喜びで食いつくのも時間の問題だったはずだ。
「こんなものまであるとは……どれもこれも、軍事転用されると厄介ですね」
縦に動くエレベーターに続いて、自動で動き続ける階段や橋が現れる。
明らかにおかしい。前回のフェスタ以前には存在しなかった技術が、そこかしこで使われている。
何者かを外から雇ったのか?
ただの阿呆に見えて、意外にも、ステラロード王家のふたりは名が通っている。
いくら包囲を狭めても、英雄ヴィクターと魔女ラシェルの名を出せば、手を貸す者はいるはずだ。
だからこそ、利が少なくても飼いならしておきたかった。
そこまで考えて、ゆるりと首を横に振った。逸れた思考を元に戻す。
外の人間を呼び込んだにしては、技術が飛躍しすぎている。
こんなものを、辺境の島国にやってくるまでいっさい隠し通してこられるわけがない。
だとすれば、やはり内部で何かあったと考えるのが自然か。古の魔法か、特殊なスキルに覚醒した者でもいれば、何が起きてもおかしくはない。
「どうもこんにちは。私どもは商人をやっておりまして……いやあ、びっくりしましたよ。港から崖の上まであっという間に移動できましたし、階段は動いているし」
「驚いたかい? なんて、実はわたしらも同じでね、びっくりしているんだよ。あれだろ、港んとこの。あれは、三人のご兄弟がちょちょいとやってくれたのさ」
「へえ? ご兄弟と申されますと、ステラロード王家の三人兄弟のことですよね? 素晴らしい才能をお持ちなのですね」
「そうとも。あのお方たちが認めてもらえるのは、わたしらも嬉しい限りさ。ずうっと、この国のためにと試行錯誤してこられたから。マグナス様は豪快そうに見えて頭が切れるお方だし、シルヴァン様の魔法の才能は素晴らしい。レガロ様も、まだ小さいのにおふたりに必死についていこう一生懸命でね」
クビにしたさっきの男に、教えてやりたいところだ。
侮られるのではなく、情報を取りにいくために侮らせるのだ。
やはり私の予想は当たっていた。港にいた三人のどれか、あるいは全員が、何かの魔法かスキルを手に入れたに違いない。
他に変化があればと城下町を見て回るが、エレベーターと動く階段以外に目新しそうなものはない。
フェスタで新しい品を出してくるつもりなら、もう動いていなければ時期的に厳しいはずだ。
「あんた、本当に運がいいよ。他のお客さんに聞いたらね、えれべーたってのは今日出来立てほやほやなんだってさ。あたしもうちの旦那もまだ乗ったことないくらいなんだから」
あれの完成が、今日だったというのか?
なるほど、これまでの常識で測るのは危険なわけだ。フェスタに何を出してくるつもりかはともかく、少し考えを改めなくてはいけないようだ。
――いいよな、レガロ?
エレベーターを使いたいと申し出た時の、長男マグナスの言葉を思い出す。なるほど、鍵はあのガキが握っているらしい。
心の底から嬉しそうに見える顔を作って、茶屋の女将に微笑んだ。
「そうなんですね、運がよかった。今日このタイミングでここに来られてよかったです。本当に、ね」
外に出てみれば、確かにそこは崖の上だ。転移魔法でもなんでもなく、説明された通り、単純に箱状の部屋が上下に動いているだけの仕組みらしい。上下に動いているだけ、か。
箱いっぱいに詰め込んだ重量のある荷を、同じ速度で運びきる耐荷重性能。
音も振動もほとんどない緻密な構造。そもそもの動力も不明ときている。
あんなものは、説明されたようで、すべてを秘匿されているのと同じだ。
「オルブライト様、素晴らしい技術ですね。ステラロード王国もやるものです、侮れませんよこれは」
心の底から驚きを隠せないといった表情で、一緒に乗っていた部下のひとりが嬉しそうにする。
阿呆なのか、こいつは。あえてそうしているのなら別だが、本当に圧倒されて驚いていますなどという顔をするものではない。侮ってくださいと言っているようなものだろうに。
「そうですね。あなたはクビです。よかったですね、これでゆっくりとその素晴らしい技術とやらを見て回れるでしょう?」
「え? は? なん、そんな……」
「今まで、どうもありがとうございました」
顎で他の部下に指示を出す。部下のひとりが鞄からいくらかの硬貨が入った袋を取り出して、男にひょいと投げた。
まったく忌々しい。勇ましく吠えるだけの獣共が、どこで余計な知恵をつけたのやら。
取るに足らない島国ではあるが、落としにくいのは確かだ。
狭苦しい港と断崖絶壁。認めたくはないが、力のある魔法使いも何人かいる。力押しで制圧できないとは思わないが、費用対効果が悪すぎる。
それならそれで、やりようはあった。ゆっくりと経済的に、国際的に追い詰めてやればいい。
ステラロード王国が得意とする農産物や、乳製品などの類似品を安価でさばき、取引相手を少しずつ奪っていった。悟られることなく、ほとんど包囲は完成していたのだ。
仕上げに持ち掛けた同盟という名の餌に、大喜びで食いつくのも時間の問題だったはずだ。
「こんなものまであるとは……どれもこれも、軍事転用されると厄介ですね」
縦に動くエレベーターに続いて、自動で動き続ける階段や橋が現れる。
明らかにおかしい。前回のフェスタ以前には存在しなかった技術が、そこかしこで使われている。
何者かを外から雇ったのか?
ただの阿呆に見えて、意外にも、ステラロード王家のふたりは名が通っている。
いくら包囲を狭めても、英雄ヴィクターと魔女ラシェルの名を出せば、手を貸す者はいるはずだ。
だからこそ、利が少なくても飼いならしておきたかった。
そこまで考えて、ゆるりと首を横に振った。逸れた思考を元に戻す。
外の人間を呼び込んだにしては、技術が飛躍しすぎている。
こんなものを、辺境の島国にやってくるまでいっさい隠し通してこられるわけがない。
だとすれば、やはり内部で何かあったと考えるのが自然か。古の魔法か、特殊なスキルに覚醒した者でもいれば、何が起きてもおかしくはない。
「どうもこんにちは。私どもは商人をやっておりまして……いやあ、びっくりしましたよ。港から崖の上まであっという間に移動できましたし、階段は動いているし」
「驚いたかい? なんて、実はわたしらも同じでね、びっくりしているんだよ。あれだろ、港んとこの。あれは、三人のご兄弟がちょちょいとやってくれたのさ」
「へえ? ご兄弟と申されますと、ステラロード王家の三人兄弟のことですよね? 素晴らしい才能をお持ちなのですね」
「そうとも。あのお方たちが認めてもらえるのは、わたしらも嬉しい限りさ。ずうっと、この国のためにと試行錯誤してこられたから。マグナス様は豪快そうに見えて頭が切れるお方だし、シルヴァン様の魔法の才能は素晴らしい。レガロ様も、まだ小さいのにおふたりに必死についていこう一生懸命でね」
クビにしたさっきの男に、教えてやりたいところだ。
侮られるのではなく、情報を取りにいくために侮らせるのだ。
やはり私の予想は当たっていた。港にいた三人のどれか、あるいは全員が、何かの魔法かスキルを手に入れたに違いない。
他に変化があればと城下町を見て回るが、エレベーターと動く階段以外に目新しそうなものはない。
フェスタで新しい品を出してくるつもりなら、もう動いていなければ時期的に厳しいはずだ。
「あんた、本当に運がいいよ。他のお客さんに聞いたらね、えれべーたってのは今日出来立てほやほやなんだってさ。あたしもうちの旦那もまだ乗ったことないくらいなんだから」
あれの完成が、今日だったというのか?
なるほど、これまでの常識で測るのは危険なわけだ。フェスタに何を出してくるつもりかはともかく、少し考えを改めなくてはいけないようだ。
――いいよな、レガロ?
エレベーターを使いたいと申し出た時の、長男マグナスの言葉を思い出す。なるほど、鍵はあのガキが握っているらしい。
心の底から嬉しそうに見える顔を作って、茶屋の女将に微笑んだ。
「そうなんですね、運がよかった。今日このタイミングでここに来られてよかったです。本当に、ね」



