崖っぷち王国の大躍進!~末っ子王子はチートスキル『素材合成(マテリアマージ)』で大空を制覇する~

 スキルや魔法は、使えば使うほど熟練度が上がる。
 使い続けても疲れにくくなるし、精度もよくなっていくのだ。
「なにそれこわい、どうなってるの?」
「わあ、やったあ」
「え……こわいって言ったの聞いてくれてた? どうして大喜びしてるの? レガロ、大丈夫?」
 シルヴァ兄が引き気味に苦笑いしても、僕は満面の笑みを浮かべたままだった。
 これがどうして、喜ばずにいられるものか。
 魔力制御がもうひとつ、精度がいまいち、今回もまあまあだねなど、必ず辛口評価をしていたシルヴァ兄が、素で驚いた反応を見せてくれたのだから。
 毎日のように、限界近くまでスキルを使っていたのが良かったのかもしれない。
 実際は、意識してスキルを使い始めてからまだ三カ月程度なのだけど、仕掛け箱ひとつで気を失っていたのが遠い昔のようだ。
「初めてシルヴァ兄にちゃんと認めてもらえた気がして、ゾクゾクしちゃった」
「そっか、ごめんね。何かに目覚めそうな発言が気になるし、これからはもう少し素直に感想を言うようにするね」
 僕がやっていたのは、素材分解と素材合成の連続使用だ。
 森で素材分解を使って木材を集め、集めた木材を適当な……とはいえしっかりイメージはして、オブジェやら小屋やら橋やらに合成する。
 合成途中なら素材を動かせる効果を利用して移動しつつ、完成した瞬間に素材分解でバラして、即座に素材合成をかける。
 これを繰り返して、森から崖まで行こうとしていた途中で、シルヴァ兄に見つかったのだ。
「というよりレガロ、今日は休みじゃなかったの?」
「うん、お休みだよ。だからちょっと、色々試してみようと思って」
 架けなおした橋は、仕事を終えた父さんと母さんにも見せて正式に認めてもらい、僕はインフラ整備の仕事をもらうことになった。
 当然といえば当然なのかもしれないけど、三歳でそんなにあれこれ仕事をするなんて、と母さんには反対された。その裏には、フェスタに向けた商品開発もあるのに、との意図が込められていたのは間違いないだろう。
 中身はアラサーだから心配しないで、なんて言うわけにはもちろんいかない。
 せっかく覚えたスキルをみんなのために役立てたい、スキルをたくさん使って精度を高めることは、フェスタのためにもなるはずだよ、というとても真っ当な理由を伝えて、無理しないことを条件に許可をもらっている。
 それからというもの、これまでとは比較にならないスピードで崖際のインフラを整えてきた。
 今日はたまたまみんなの手が埋まっていてお休みになり、ひとりでスキルの練習がてら、素材を運んでいたというわけ。
「……僕たちってもう、必要なかったりする?」
「そんなことないよ。精度も魔力操作もまだまだだから、いっぱい練習したいだけ」
「しまったな……褒めすぎないように気をつけてたのが、こういう形で裏目に出るなんて」
「ん? シルヴァ兄、何か言った?」
「なんでもないよ。それでこの大量の素材、運んでいってどうするの?」
 シルヴァ兄の疑問はもっともだ。素材の移動はできても、ひとりで橋は架けられない。
 質問ついでに、僕の肩に乗ったソルを撫でようとして、シルヴァ兄の右手が空を切る。
「キュウ……!」
 相変わらずの塩対応も、だんだん見慣れてきた。ショックを受けた様子のシルヴァ兄も、ふんぞり返って僕に身を寄せるソルも、どちらも大変かわいくてよろしい。
「上手くいくかわからないから、まだないしょ」
 のんびり散歩がてら、素材の移動によるスキルの訓練をしつつ崖のところまでやってくる。
 ここは、一番最初にみんなで架け直した吊り橋が架かっている場所だ。
 崖と崖の距離が他の場所より狭くて、小ぶりの橋なので、今日やってみたい実験にうってつけだと思っていた。頭の中に思い描いたものをもう一度強くイメージして、素材合成を発動させる。
「それじゃあいくね」
 移動させてきた素材と、すでに完成している橋をまとめてぐるりと囲む。
 橋の規模にしては、随分と巨大な魔法陣が現れて強い光を放つ。久しぶりに、身体の中から魔力が吸い取られる感覚があった。それだけ負荷の高い、複雑な合成が行われている証拠だ。
「ちょっとレガロ、なにこの魔力。大丈夫なの?」
「大丈夫……!」
 カチカチと小気味よい音がして、ぱあんと完成した新しい橋が出力された。
 橋を固定するところは何度も見てきているから、その部分はいじらずに合成しなおすイメージもできていた。完全に新しいものを架けるのは無理でも、すでにできているものを更新する形ならいけそうだ。
 しっかり集中して橋をかけなおすと、ふうと一息ついて様子を確かめた。
「上手く動いてくれるといいんだけど」
「動くって……えええ!?」
 僕が合成したのは、動く歩道ならぬ動く橋だった。
 橋の幅を倍にして、前世の動く歩道やエスカレーターのイメージそのままに、双方向に自動で動くようにしてみた。もちろん、これまでより橋自体が重くなるから、両岸の補強もしてある。
「どうやって動いてるの、これ?」
「これはね、魔力で動いてるんだ」
「魔法を詰めた道具は確かにあるけど……さっき合成した時の魔力で、ってこと? それだとすぐに動かなくなっちゃうんじゃない?」
「多分、そうはならないよ。橋の下を見てみて」
 少し離れて、別の角度から動く橋を眺める。考えたのは、風力発電ならぬ風力発魔力の仕組みだ。
 断崖絶壁だけあって、崖の間には常に一定以上の風が吹いている。
その風をキャッチして魔力に変換し、歩道部分を動かしているのだ。
「風を魔力に? 理解が追いつかないかも」
「橋の下に風車があって、橋が自動で動いたらかっこよくない?」
 ぱっと見ても何に貢献しているのかわからない、謎のプロペラはロマンだと思う。
「ちょっと、ワカラナイ」
 と思ったのだけど、シルヴァ兄には伝わらなかったようだ。異論は大いに認めよう。
 とにかく、想像した通りに動いてくれたので、もうひとつ先の仕組みもやってみようかな。
「次は、もう少し高低差がある橋をエスカレーター……えっと、動く階段にしたいんだよね」
「動く階段……橋のままじゃダメなの?」
「橋にしては、急すぎる場所があるでしょ? あれ、怖いし渡りにくいし気になってたんだ」
「まあねえ」
 動く歩道で味を占めた……もとい、要領を掴んだ僕は、高低差があって渡りにくい場所や、城下町への行き来でよく使う場所を中心に、吊り橋を動く歩道やエスカレーターに改造していった。
 利便性を損なわなければなんでも好きにやってみていいぞ、と父さんからは言われている。
 好きにやっていいなら、橋が自動で動くようになっても問題はないよね。だって、便利になっているんだから。
「レガロ、身体は大丈夫?」
「大丈夫って?」
「もう何カ所も橋を作り変えてるよね。すごい量の素材をずっと運び続けてるし、魔力は大丈夫?」
「言われてみれば、ちょっと喉が渇いたかも。あと、おなかすいた」
「うーん、これは想像以上だね……とりあえず、一度戻ってご飯にしない?」
 確かに、朝から動きっぱなしであっという間にお昼になってしまったから、休憩した方がいいかもしれない。本当は港の方までいって、新鮮な魚でも……とそこまで考えて、僕は閃いてしまった。
 エスカレーターと動く歩道ができたなら、アレもいけるのでは?
「お昼食べたら、もうひとつ新しいアイデアを試してみてもいい?」
「いいけど、確か午後ならマグナ兄も空いてたはずだから、呼んできていい? 多分また、何かを自動で動かそうとしてるんだよね? 僕ひとりじゃ判断しきれなくなってきたから、三人で相談しようよ」
「もちろんいいよ。もしダメだと思ったら教えてね」
 マグナ兄が来てくれるのは、ある意味願ったり叶ったりだ。
 絶対かっこよくなるよとお願いすれば、ふたつ返事で許可してくれそうな気がする。
「念のためだけど、ちゃんと必要かどうかで考えようね? 例えば、マグナ兄が好きそうなちょっと無骨なデザインにすればいけるかもとか、考えてないよね?」
 さすがはシルヴァ兄、しっかりばれていた。
「も、もちろんだよ。とりあえずお昼にしようよ、行こ行こ」
 ぎこちない笑顔を返して、僕は逃げるように先頭に立って歩き出した。