3つの契約を課したのはあなたですよね?

 「……ねぇカイル、あなたは人間、よね? 何故この獣人の国で護衛騎士なんてしているの? いくら人間も多い国だとはいえ、あなた独身よね?」
 この獣人の国は人間も多く存在する。
 それは、獣人が人間の国で番を見つけ、結婚したからで、時にはそれが同意でなく犯罪まがいに連れて来られることもある。
 国際的にも問題視されているこの拉致結婚だけれど、そういうものだ、という獣人国側の意識から、なかなか問題が解決されないままになっている。

 だからこそ疑問だ。
 独身の人間男性が、なぜこの種族の違う国で護衛騎士として働いているのか──。
 私の何の気なしに放たれた言葉に、カイルはわずかに口をキュッと引き結んでから、やがて、ぽつり、と話し始めた。

 「……私は、あなたの国──マルボロ王国で生まれ、育ちました。オーランド騎士団長はご存知でしょうか? あれは私の父です」
 「オーランド騎士団長……まぁ、あの方のご子息だったの?」

 オーランド騎士団長は父が絶対的な信頼を寄せるマルボロ王国の騎士団長で、確か二人の息子と一人の娘がいると聞いたことがある。
 息子の一人は私の兄である王太子の護衛をしているから、カイルはその弟?
 世間は何て狭いのかしら……。

 「私には兄と、妹が居ました。兄は、もうご存知かと思いますが、現在王太子殿下の護衛をさせていただいております。ですが……」
 そこまで言って、カイルの表情が曇った。
 「妹は5年ほど前、ある日突然、攫われたのです。……獣人族の国……ウルバリスに」
 「っ……!? 攫われた!? って……まさか……」
 驚く私に、カイルがゆっくりと頷く。

 「はい。……獣人の番として。拉致結婚を……」
 「そんな……」
 だけど騎士団長の娘が拉致結婚にあっているだなんて、私は知らない。
 恐らく、報告に上がって来てすらいない。
 「報告は…‥」
 「……していません。父は騎士団長として、国と国に争いをもたらす原因であってはならない、と……」
 「っ……」

 オーランド騎士団長はとても職務にまじめで忠義を持った方だ。
 だけどそこまで……そうまでして国を守る必要なんて……。

 「父の立場は、母も、兄も、そして私も理解しています。ですが、どうしても何とかしてやりたかった私は、絶縁状を置いて国を出ました。誰にも、迷惑をかけないように」
 「絶縁状……」
 彼なりの強い意志。
 ご家族も苦しんだでしょうに、そんな素振り、一度だって見せたことはなかった。

 「それなのに……。……この国について妹の行方を探し出した時、妹はすでに……亡くなっていました」
 「!? 亡くなって…‥? どうして……」
 「妹には、マルボロ王国に婚約者がいたんです。彼は商家の人間で、妹とは幼馴染で仲が良かった。だからでしょう。どうしても、彼以外の人間──しかも獣人と結婚するだなんて、耐えられなかったのです。初夜の場で、自分を拉致した獣人と刺し違え、二人共に息絶えていたようです」

 あまりに凄惨なその結末に、言葉が出てこない。
 それほどまでに愛した人なんていない私にはわからない感情だけれど、それでも、これが悲劇でしかないことはわかる。

 「私は、獣人の家族に妹の亡骸を引き渡させ、丘の上に埋めました。さすがに、亡骸を持って国境を超えるには正統性が求められる。そうすれば父が守ろうとしたものも露呈され無駄になり、妹がしたことも明らかにさせることになる。だから、ここに埋め、私も、妹が寂しくないように、この地で生きることを決めたのです」

 さぞ悔しい事だろう。
 だけどこの人は、自分以外の大切な人の為に、全てを背負って生きることに決めたのね。
 胸が、みしみしと痛む。

 「だから、滅びることを待っていたこの国が立ち直る可能性に、戸惑いながらも……期待してしまう」
 まっすぐに、どこか複雑そうに細められたそれに首をかしげると、すぐにカイルはハッとして頭を下げた。

 「失礼しました、クリスティ様。仮にも王妃であるあなたに、失言でした」
 「うん、仮に、じゃなくて、実は本物の王妃なのよ、私」
 そう言って顔を見合わせると、私達はどちらからともなく、ふはっ、と噴き出した。

 「ねぇカイル。私、この国の衝動は仕方がないものだとは思う。だけどそれが絶対であってはならないし、罪は罪として裁かれるべきだと思っているわ。私に何ができるかはわからない。だけど、仮にも、実は本物の王妃だから──やれるだけ、やってみるつもりよ。きちんと、人と獣人が整備された法の下に、対等に生きていけるように」
 「クリスティ様……」

 そう、私が決意を言葉にした、その時だった──。