3つの契約を課したのはあなたですよね?

 

「……静かだな」
 玉座に座り、ぽつりと漏れた声は、やけに空虚だった。

 かつては常に人の気配があった玉座の間。
 臣下が並び、声が飛び交い、国が動いていた場所。
 それが今は――ひどく、広く感じる。


「報告いたします」
 臣下が距離を取ったまま頭を下げる。
「……何だ?」
「西部のゴルティア公爵家と公爵家派閥の家一体が、正式に離反を表明しました」
「……そうか」

 驚きはない。
 もう何度も聞いた報告だ。
 ここ最近はずっとそう。
 どこどこの一派が王家の派閥から手を引く、どこどこの貴族が王制反対運動に加担している。
 聞き飽きた。

「理由は」
「……“王は偽りの番にうつつを抜かし、国を守れなかった”と」
 言いづらそうに言葉を紡ぎ出した臣下に、俺は乾いた笑いをこぼした。

 「……正しいな」
 否定できない。
 あの日、国は壊れかけた。
 そして救ったのは────自分ではない。


「他には」
「民の支持も……その……」
 言葉を濁すが、言わなくても分かる。

「……クリスティ様に、集まっております」

 やっとのことで口にされたその名を聞いた瞬間、指が、わずかに震えた。

「……当然だ。彼女が救ったのだからな」
 否定の余地など、どこにもない。

「もういい。下がれ」
「はっ……」
 臣下が逃げるように去って、再び謁見の間には静寂が訪れた。

「ふぅ……」
 俺は静かに息を吐き、ゆっくりと目を閉じた。

 思い出すのは、あの日の言葉。


『契約を、忘れましたの?』


 忘れるはずがない。
 あれは、自分が与えたものだ。

 彼女を遠ざけるために。
 彼女を“不要な存在”として扱うために。

 「……愚かだな」

 誰もいない玉座の間で、呟く。

 分かっている。
 最初から、どこかで違和感はあった。
 それでも、自分は、“楽な方”を選んだ。

「……番、か」
 その言葉が、今はひどく虚しい。

 本能。
 絶対。
 運命。
 そんなものに縋った結果が、これだ。

「……違うな」
 ぽつりと、否定する。

「選ばなかったのは、俺だ」

 そして俺は玉座から立ち上がる。

 虚ろな目で虚空を仰ぐ俺は、そこに座る資格はないと理解していた。