3つの契約を課したのはあなたですよね?


「あら?」
 落ち着きを取り戻した町を見つめる私の視界に倒れたままのリリィ様が映った。
 その身体からは、もう先ほどまで感じていた魔力の流れは一切感じられない。

 同時にきっと、あの“匂い”も。
 番の証とも言える強い香りも、人間である私にはわからないけれど消えていることだろう。

「……そんな……」
 かすれた声が、すぐそばで落ちた。
 ルシアン様は呆然とつぶやき、戸惑いを隠せない様子で倒れたままのリリィ様を見下ろしている。
 当然でしょう。先ほどまで“自分の番”だと信じていた存在から、何もかもが消えてしまったのだから。
 けれど、ちゃんと生きてる。

「大丈夫ですわ、ルシアン様。リリィ様は気を失っているだけです。擬態魔法の持ち主である彼女は、力を使い果たしました。もう……あなたの“番”に擬態することはできません」
「……は…………?」
 私の言葉に、空気がぴしり、と張り詰めた。
 私は一歩も動かないまま、淡々と言葉を重ねる。

「それでも彼女と共に在るというのであれば、これまで通り、どうぞ」
 淡々と、まるで他人事のように聞こえるだろうが、まぁ他人だ。
 立場上は妻だけれど。

 番ではない人と結婚することも珍しくはない獣人の国だ。
 騙されていたとはいえ愛していたのだから、きっと番に擬態できなくなっても一緒にやって行けるだろう。……多分。

「……擬態……?」
 ルシアン様の口からぽつりとそう零れ落ちると、その端整な表情が、ゆっくりと変わっていく。
 理解が追いついた瞬間、その瞳に浮かぶのは動揺と、否定。

 そして、次の瞬間、彼の視線が──私へと向いた。
 ピクリ、と鼻が動き、痺れたように尻尾から耳にかけてぶるりと毛が逆立ち、黄金の瞳が、大きく見開かれる。

「クリスティ……まさか……お前が……おれの?」
「…………はい?」