「……どうして」
鏡の前で、私は自分の両手を見つめる。
細く白い指先に完璧に整えられた外見。
何も変わらない。
それなのに…‥。
「……薄れてる?」
番の気配が。
あれほど強く、誰もが跪いた“絶対の証”が、わずかに……揺らいでいる。
「そんなはずない……」
私は顔をゆがめ、唇を噛む。
あり得ない。
あってはならない。
だってこれは、私が私の力を以って“奪ったもの”なのだから。
可愛いリリィ。
皆に愛されるリリィ。
それなのに市井で生まれ、孤児として育った私は、ずっと、自分の居場所はここではないと信じ続けてきた。
私には生まれつき魔力があった。
擬態魔法。
最初にそれに気づいたのは、孤児院の院長先生に擬態して孤児院の子どもを騙した時。
この力、使える、って思った。
だから完璧に模倣した。ルシアン様の番の匂いを。
誰にも見破られないように、強い匂いに変えて。
案の定、ルシアン様を騙すことができた。
ルシアン様はもう私の言う事しか聞かない。王妃になるのももうすぐ。
だと思っていたのに──。
「……あの女」
脳裏に浮かぶのは、あの人間の王妃の顔。
静かで、穏やかで、何もかも見透かしているような目。
「ただの人間のくせに……!!」
あの女が来てから、何かがおかしい。
何かが狂い始めた。
自分でもわかるもの。自分の番の匂いが、薄れ始めていること。
ルシアン様も、私に強烈な情熱を傾けなくなってきたこと。
「……なら」
ぎゅっと拳を握る。
「もっと強くすればいいだけよ」
そう。
足りないなら、増やせばいい。
もっと濃く。もっと強く。もっと支配的に。
誰も疑えないほどに――“本物らしく”。
「そうすれば、ぜぇんぶ、元通り……」
私はそう自分に言い聞かせるように呟いて、宙を仰いだ。



