「この夏が最後の勝負だからな! しっかり勉強しろよー」
担任が気だるげな声で生徒を叱咤激励する。
竜ヶ崎誠は高校生最後の夏休みを迎えようとしていた。
教師はみんな口を揃えて勉強をしろと言ってくるが、最後の夏休みを勉強だけに費やすつもりは初めから頭になかった。
真面目な生徒は真剣な表情で担任の話に耳を傾けている一方、やる気のない生徒は配布物を配りながら、ひそひそ話し笑いあっていた。
「ヤマセーン! これって、私たちもやらなきゃいけないんですかぁ?」
クラスのカースト上位に属する女子生徒、相田華がニヤニヤしながらヤマセンこと担任の山崎透に尋ねている。ヤマセンは面倒くさそうに手を振ると「やれば少しはマシになるかもしれんぞ」と答える。
ヤマセンの答えに、華は「ひっどーい」と周りの生徒たちと一緒になってクスクス笑う。
ヤマセンからすれば彼女たちは間違いなくやる気のない生徒に分類されるだろう。
「おい、早く受け取れよ」
華とヤマセンのやり取りを見ていたら、目の前に来ていたプリントに気が付かなかった。プリントを片手に不機嫌そうな顔をしているのは鈴木悠真という生徒だ。彼は勉強はできるが運動は苦手な典型的なガリ勉タイプの生徒だった。
「わるい、気が付かなかった」
謝りながらプリントを受け取ると、悠真は気にしていないのかすぐに前を向き、配られたばかりのプリントを確認している。
「なんにしても、後悔するような夏にだけはするなよ。あとから泣いて縋ったって助けてやらないからな」
ギロリと華たちを睨み、厳しく言うヤマセンにドッと笑い声が上がる。
ヤマセンは悪い先生ではないのだが、大きな体に丸い顔、筋肉質な胸板がどこか熊を連想させ、真面目な話をしているときほど何故か面白く見えてしまう。
ヤマセンも自分の見た目が原因なのをわかっているからか、必要以上に自分の話を押し付けたりはしなかった。
かくいう誠も、ヤマセンの話を右から左に聞き流す生徒の一人だった。
適当に話を聞いていると、机の中に入れていたスマートフォンが光を放つ。
誠はヤマセンの目を盗みつつスマートフォンを確認する。
『今日、どうする?』
簡潔なそのメッセージは、隣のクラスにいる田辺裕二からだった。
裕二とは小学校からの付き合いで、幼馴染であり親友でもある。
くせ毛の麻茶色の髪は犬みたいで、誠はつい撫で回してしまう。その度に裕二に怒られるが、誠は気にしなかった。
裕二は誰にでも優しくて、友達も多い。
一方、誠は人と付き合うのが苦手だったから、誰とでも仲良くなれる裕二のことを尊敬していた。ただ、自分だけが彼の一番じゃないのは気分のいいものではなかったが。
『ゲーセン。いつものところ』
サッとメッセージを打つと送信ボタンを押す。誠がスマートフォンの電源を落とす前にメッセージが既読になり、『了解!』と元気な返事と一緒に可愛らしい犬のスタンプが送られてくる。
――こんなところでも犬かよ。
誠は微笑を浮かべながらスマートフォンの電源を落とす。
担任が気だるげな声で生徒を叱咤激励する。
竜ヶ崎誠は高校生最後の夏休みを迎えようとしていた。
教師はみんな口を揃えて勉強をしろと言ってくるが、最後の夏休みを勉強だけに費やすつもりは初めから頭になかった。
真面目な生徒は真剣な表情で担任の話に耳を傾けている一方、やる気のない生徒は配布物を配りながら、ひそひそ話し笑いあっていた。
「ヤマセーン! これって、私たちもやらなきゃいけないんですかぁ?」
クラスのカースト上位に属する女子生徒、相田華がニヤニヤしながらヤマセンこと担任の山崎透に尋ねている。ヤマセンは面倒くさそうに手を振ると「やれば少しはマシになるかもしれんぞ」と答える。
ヤマセンの答えに、華は「ひっどーい」と周りの生徒たちと一緒になってクスクス笑う。
ヤマセンからすれば彼女たちは間違いなくやる気のない生徒に分類されるだろう。
「おい、早く受け取れよ」
華とヤマセンのやり取りを見ていたら、目の前に来ていたプリントに気が付かなかった。プリントを片手に不機嫌そうな顔をしているのは鈴木悠真という生徒だ。彼は勉強はできるが運動は苦手な典型的なガリ勉タイプの生徒だった。
「わるい、気が付かなかった」
謝りながらプリントを受け取ると、悠真は気にしていないのかすぐに前を向き、配られたばかりのプリントを確認している。
「なんにしても、後悔するような夏にだけはするなよ。あとから泣いて縋ったって助けてやらないからな」
ギロリと華たちを睨み、厳しく言うヤマセンにドッと笑い声が上がる。
ヤマセンは悪い先生ではないのだが、大きな体に丸い顔、筋肉質な胸板がどこか熊を連想させ、真面目な話をしているときほど何故か面白く見えてしまう。
ヤマセンも自分の見た目が原因なのをわかっているからか、必要以上に自分の話を押し付けたりはしなかった。
かくいう誠も、ヤマセンの話を右から左に聞き流す生徒の一人だった。
適当に話を聞いていると、机の中に入れていたスマートフォンが光を放つ。
誠はヤマセンの目を盗みつつスマートフォンを確認する。
『今日、どうする?』
簡潔なそのメッセージは、隣のクラスにいる田辺裕二からだった。
裕二とは小学校からの付き合いで、幼馴染であり親友でもある。
くせ毛の麻茶色の髪は犬みたいで、誠はつい撫で回してしまう。その度に裕二に怒られるが、誠は気にしなかった。
裕二は誰にでも優しくて、友達も多い。
一方、誠は人と付き合うのが苦手だったから、誰とでも仲良くなれる裕二のことを尊敬していた。ただ、自分だけが彼の一番じゃないのは気分のいいものではなかったが。
『ゲーセン。いつものところ』
サッとメッセージを打つと送信ボタンを押す。誠がスマートフォンの電源を落とす前にメッセージが既読になり、『了解!』と元気な返事と一緒に可愛らしい犬のスタンプが送られてくる。
――こんなところでも犬かよ。
誠は微笑を浮かべながらスマートフォンの電源を落とす。



