一学期後半、双葉祭の準備が始まる。皆は受験に集中したいために、面倒な役割からは逃げていた。そんな中、藤野は一番面倒な応援合戦を引き受けて、それを楽しそうにこなしていた。
なんだか一年のころを思い出していた。藤野ってそういうところが最高にかっこいい。
もちろん、今年も旗振りを引き受けていた。どちらかと言うと、おとなしいイメージの藤野が、ブンブン旗を振り回すと、ギャップがあるらしくちょっとした人気者になっていた。俺はその後ろで腕を組んでいた。三好に「番犬かよ」っていじられたけど、番犬なんて光栄だ。最高の誉め言葉じゃないか。
藤野の三年の体育祭が最高の思い出になるように、俺は今年も配点の高いリレー競技を本気で走った。もちろん、負けるわけがない。トラック1/4周くらいの差をつけてぶっちぎった。「藤野のおにぎりのおかげだ」って伝えると「燃費良いね」って笑われた。けど、久しぶりに食べた藤野のおにぎりは最高においしかった。
俺は藤野にできる男だとアピールすることに余念がない。
文化祭の演目、三年生は合唱だ。四歳から習っていたピアノの腕をいかんなく発揮して伴奏を弾いた。藤野はメロディもそうだが歌詞のほうをすごく気に入っていたみたいで。なんだか、ふにゃっとした顔で歌詞を読んでいた。
そして、本番。双葉祭最終日。
ブザーが鳴ってざわつく体育館。クラスメイト達がお辞儀をして、指揮者の合図に合わせ、さっと肩幅に足を開く。
俺は深呼吸をして最初の「ソ」の音を落とした。
俺の暗躍で藤野は一番ピアノに近い場所に立っていた。一音一音丁寧に鍵盤をたたく。歌の邪魔をしないように、優しくそれでいて、強く。
ピアノの羽越しに藤野を見た。ピンと背筋を伸ばして歌っていた。
この歌は恋愛ソングであり、応援歌でもある。
藤野は歌詞を噛みしめるように歌っている。それが、表情の柔らかさに出ていた。
最後、思いを伝える部分。僕はあなたが好きだとストレートに言う歌詞。彼がどんな表情で歌うのか、見逃さないように見つめた。藤野は視線を俺のほうに向けて歌い切った。
え、まるで告白されたみたいだ。うれしい。
最後の一音を弾ききって、ピアノの鍵盤から手を下ろす。俺はもう一度、藤野のほうを見た。
藤野はこちらを見て笑っていた。
舞台からはけた後、藤野を追いかけて抱きしめた。周りでも互いに抱き合ったり騒いだりしていたので、変に目立つこともないだろう。
でも、このハグは恋のハグだ。きっと伝わらないだろう。だけど、どうしても抱きしめたくなった。
「ピアノすごくよかったよ」
藤野はそう言って褒めてくれた。
「藤野の声も、ちゃんと聞こえた」
歌っている時の藤野の柔らかな表情を思い出して、顔が赤くなる。あわてて、そっぽを向いてごまかした。おそるおそる藤野を見たら、真っ赤な顔で口をパクパクしていた。
ああ、少しは意識してくれてんだ。ってなんか、伝えてよかったと思った。
できれば、もっと意識してくれ。
双葉祭が終われば、願書の提出。中間テスト、それに面談、面接の練習。小論文の練習。
理転するときに国立合格を約束したため、かなり真面目に勉強をした。藤野は隣県の国立大学教育学部に決めたみたいだ。偶然だが俺と同じ志望校だ。あそこは大学独自の補助制度があり、おばあちゃんの家からも電車で一時間半。通うには遠いけど、他と比べれば近い。それとなく集めた資料に潜り込ませておいて大成功だ。決して思考誘導したわけではない。
タイミングはいまだと、俺はルームシェアを提案した。一緒に住めば、家賃や光熱費は折半だし。学校に近いところを借りやすくなる。登校時間を削減できれば、勉強する時間を増やせるとか何とか。でも結局はおばあちゃんの「二人なら心配ないね」に藤野はうなずいていた。
そんなわけで藤野とルームシェアしながら同じキャンパスで、四年過ごせるかもってなったら頑張るしかないだろう。
なんだか一年のころを思い出していた。藤野ってそういうところが最高にかっこいい。
もちろん、今年も旗振りを引き受けていた。どちらかと言うと、おとなしいイメージの藤野が、ブンブン旗を振り回すと、ギャップがあるらしくちょっとした人気者になっていた。俺はその後ろで腕を組んでいた。三好に「番犬かよ」っていじられたけど、番犬なんて光栄だ。最高の誉め言葉じゃないか。
藤野の三年の体育祭が最高の思い出になるように、俺は今年も配点の高いリレー競技を本気で走った。もちろん、負けるわけがない。トラック1/4周くらいの差をつけてぶっちぎった。「藤野のおにぎりのおかげだ」って伝えると「燃費良いね」って笑われた。けど、久しぶりに食べた藤野のおにぎりは最高においしかった。
俺は藤野にできる男だとアピールすることに余念がない。
文化祭の演目、三年生は合唱だ。四歳から習っていたピアノの腕をいかんなく発揮して伴奏を弾いた。藤野はメロディもそうだが歌詞のほうをすごく気に入っていたみたいで。なんだか、ふにゃっとした顔で歌詞を読んでいた。
そして、本番。双葉祭最終日。
ブザーが鳴ってざわつく体育館。クラスメイト達がお辞儀をして、指揮者の合図に合わせ、さっと肩幅に足を開く。
俺は深呼吸をして最初の「ソ」の音を落とした。
俺の暗躍で藤野は一番ピアノに近い場所に立っていた。一音一音丁寧に鍵盤をたたく。歌の邪魔をしないように、優しくそれでいて、強く。
ピアノの羽越しに藤野を見た。ピンと背筋を伸ばして歌っていた。
この歌は恋愛ソングであり、応援歌でもある。
藤野は歌詞を噛みしめるように歌っている。それが、表情の柔らかさに出ていた。
最後、思いを伝える部分。僕はあなたが好きだとストレートに言う歌詞。彼がどんな表情で歌うのか、見逃さないように見つめた。藤野は視線を俺のほうに向けて歌い切った。
え、まるで告白されたみたいだ。うれしい。
最後の一音を弾ききって、ピアノの鍵盤から手を下ろす。俺はもう一度、藤野のほうを見た。
藤野はこちらを見て笑っていた。
舞台からはけた後、藤野を追いかけて抱きしめた。周りでも互いに抱き合ったり騒いだりしていたので、変に目立つこともないだろう。
でも、このハグは恋のハグだ。きっと伝わらないだろう。だけど、どうしても抱きしめたくなった。
「ピアノすごくよかったよ」
藤野はそう言って褒めてくれた。
「藤野の声も、ちゃんと聞こえた」
歌っている時の藤野の柔らかな表情を思い出して、顔が赤くなる。あわてて、そっぽを向いてごまかした。おそるおそる藤野を見たら、真っ赤な顔で口をパクパクしていた。
ああ、少しは意識してくれてんだ。ってなんか、伝えてよかったと思った。
できれば、もっと意識してくれ。
双葉祭が終われば、願書の提出。中間テスト、それに面談、面接の練習。小論文の練習。
理転するときに国立合格を約束したため、かなり真面目に勉強をした。藤野は隣県の国立大学教育学部に決めたみたいだ。偶然だが俺と同じ志望校だ。あそこは大学独自の補助制度があり、おばあちゃんの家からも電車で一時間半。通うには遠いけど、他と比べれば近い。それとなく集めた資料に潜り込ませておいて大成功だ。決して思考誘導したわけではない。
タイミングはいまだと、俺はルームシェアを提案した。一緒に住めば、家賃や光熱費は折半だし。学校に近いところを借りやすくなる。登校時間を削減できれば、勉強する時間を増やせるとか何とか。でも結局はおばあちゃんの「二人なら心配ないね」に藤野はうなずいていた。
そんなわけで藤野とルームシェアしながら同じキャンパスで、四年過ごせるかもってなったら頑張るしかないだろう。
