帰り際、めずらしく藤野のおばあちゃんに呼び止められた。どうやら藤野はおばあちゃんにも何も言ってないらしい。何か分かれば連絡するからと、俺はおばあちゃんとアドレスを交換して、別れた。
俺のおまじないはすぐに効果を表した。思ったのとはまるで違うかたちで。
それはいつも通りの休み時間だった。一学期も終わりかけのこの時期。休み時間に文字通り休んでいる奴はいない。皆、本を出してペンを走らせている。
それは俺たちも同じだった。あれから、藤野はいまだに、悩んでいるようで、うつむくことが多くなっていた。
ちらりと様子をうかがっていると、藤野がふいにペンを止めた。
「そういえば、三好君は進路どうするの?」
三好はI大医学部と答え、他の二人も同じく医療系の大学を答えていた。藤野が感心したように褒める。
「いや、なりたいものは入ってから決める。だって、医者って言っても外科もあれば内科もある……それでも、医者になりたい」
それを聞いた瞬間、藤野の目の表面がきらりと乱反射した。あ、と思った。
ああ、たぶん、今、藤野の悩みが一つ解決した。
ゆっくりと口角が上がって、瞬きをした瞬間、何かを決意したように口を引き結んだ。
「なんか……聞いてよかったよ。僕今初めていうけど、教師になりたいかも」
みみっちいのは分かってる。でも、三好にやられた。藤野の初めてを取られた!
いろんな感情と、嫉妬が押し寄せてきて固まっていると、藤野が照れ臭そうにこちらを見た。その瞬間はっとする。
俺と同じ教師の道を目指すって、それってどういう意味で言ってるんだ?
「たぶん、そうなると思ってた」
三好君は俺を見ながら笑って、またノートにペンを走らせ始めた。そのあとすぐに、藤野は担任に面談を申し込んでいた。
俺は今度こそ、後れを取らないように、藤野のおばあちゃんとやり取りを始めた。たぶん、藤野が二の足を踏んでいる理由は、藤野の家の経済状況と、おばあちゃんが心配だからだ。
だから、使えそうな奨学金や、補助の出る大学。そういうのを全部調べ上げておばあちゃんに渡した。
それには三好も少しだけ手を貸してくれた。
「え?生活費なんて、一緒に暮らせばいいじゃん。俺たちもルームシェアするよ?」
三好がそんな風に言ってのけて、俺は頭を抱えた。すごく爛れてる! でも、一理あると思って調べた結果、一人暮らしよりは家賃が安く収まりそうだ。これなら、論理的に説得できるんじゃないだろうか。
その後、何度か押して、とうとう藤野が悩みを打ち明けてくれた。
実はこそこそ調べていたのだが、それはおばあちゃんにばらされた。
気まずくしていると、藤野は俺に抱き着いた。ポスっと頭を肩に乗せてきて、おずおずと手を伸ばす。抱き着きなれてない感じ。
「ありがとう」
ごめんじゃなくて、ありがとうを選ぶところが藤野らしかった。藤野は前向きに進路を考えられるようになったようだ。顔が明るくなった。
でも、抱きついてくるなんて。ああ、ほんとうに無防備すぎてしんどい。
俺のおまじないはすぐに効果を表した。思ったのとはまるで違うかたちで。
それはいつも通りの休み時間だった。一学期も終わりかけのこの時期。休み時間に文字通り休んでいる奴はいない。皆、本を出してペンを走らせている。
それは俺たちも同じだった。あれから、藤野はいまだに、悩んでいるようで、うつむくことが多くなっていた。
ちらりと様子をうかがっていると、藤野がふいにペンを止めた。
「そういえば、三好君は進路どうするの?」
三好はI大医学部と答え、他の二人も同じく医療系の大学を答えていた。藤野が感心したように褒める。
「いや、なりたいものは入ってから決める。だって、医者って言っても外科もあれば内科もある……それでも、医者になりたい」
それを聞いた瞬間、藤野の目の表面がきらりと乱反射した。あ、と思った。
ああ、たぶん、今、藤野の悩みが一つ解決した。
ゆっくりと口角が上がって、瞬きをした瞬間、何かを決意したように口を引き結んだ。
「なんか……聞いてよかったよ。僕今初めていうけど、教師になりたいかも」
みみっちいのは分かってる。でも、三好にやられた。藤野の初めてを取られた!
いろんな感情と、嫉妬が押し寄せてきて固まっていると、藤野が照れ臭そうにこちらを見た。その瞬間はっとする。
俺と同じ教師の道を目指すって、それってどういう意味で言ってるんだ?
「たぶん、そうなると思ってた」
三好君は俺を見ながら笑って、またノートにペンを走らせ始めた。そのあとすぐに、藤野は担任に面談を申し込んでいた。
俺は今度こそ、後れを取らないように、藤野のおばあちゃんとやり取りを始めた。たぶん、藤野が二の足を踏んでいる理由は、藤野の家の経済状況と、おばあちゃんが心配だからだ。
だから、使えそうな奨学金や、補助の出る大学。そういうのを全部調べ上げておばあちゃんに渡した。
それには三好も少しだけ手を貸してくれた。
「え?生活費なんて、一緒に暮らせばいいじゃん。俺たちもルームシェアするよ?」
三好がそんな風に言ってのけて、俺は頭を抱えた。すごく爛れてる! でも、一理あると思って調べた結果、一人暮らしよりは家賃が安く収まりそうだ。これなら、論理的に説得できるんじゃないだろうか。
その後、何度か押して、とうとう藤野が悩みを打ち明けてくれた。
実はこそこそ調べていたのだが、それはおばあちゃんにばらされた。
気まずくしていると、藤野は俺に抱き着いた。ポスっと頭を肩に乗せてきて、おずおずと手を伸ばす。抱き着きなれてない感じ。
「ありがとう」
ごめんじゃなくて、ありがとうを選ぶところが藤野らしかった。藤野は前向きに進路を考えられるようになったようだ。顔が明るくなった。
でも、抱きついてくるなんて。ああ、ほんとうに無防備すぎてしんどい。
