お詫びチートではじめる異世界農園暮らし~【製作】&【開墾】スキルで好きに開拓したら、精霊姫やモンスターが住まう最強の土地ができました~

 暑い日差しが燦々と降り注ぐ農園に、振り下ろした鍬の音が軽やかに響く。

 異世界にやって来て三ヶ月。

 季節は春を通り過ぎて夏になった。

 過ごしやすかった春が、ちょっとだけ懐かしく思えてしまう。

 まぁ、こっちの夏は日本の夏ほど過酷じゃないんだけどね。

 気温が四十度を超えることはないし、暑くなるのは午後から。

 そういえば小学生のころ、夏休みになると親から「宿題は涼しい午前中にやっておきなさい」って言われてたっけ。

 確か、これくらいの暑さだった気がするな。

 そんな昔の小学生みたいに、午前中は農園の開拓を進めて午後はログハウスでゆっくりするか、釣り堀でのんびり糸を垂らしている。

 う~ん……なんて最高な毎日だろう。

 ちなみに、以前の悩みの種だった体調不良は一度も起きていない。

 それどころか、自分でもびっくりするくらい絶好調。

 開拓や農作業をしても全く疲れないし、翌日に筋肉痛になることもない。

 僕の魂が神樹とリンクしていたって話は本当だったんだと実感する。


「……よし、こんなところかな」


 鍬を置いて、額の汗を拭う。

 今、僕がやっているのは新しい畝作りだ。

 土を耕してからトイレのコンポスト堆肥を撒き、畝をひたすら作る。

 畝作りは子どもの頃に祖父の農園でやったことがあった。

 だからその記憶を頼りにやったけど、意外となんとかなるもんだな。

 というか、子どもの頃に祖父からいろいろと教わっておいて良かったな。手探りで全部やってたら、とっくに挫折してたかもしれない。


「お屋形様~」
「ごむごむ~」


 と、僕を呼ぶ声が。

 ハクの弟「ヒサシ」がこちらに歩いて来る。

 背中にゴレム5号を乗せてるし、一体どうしたんだろう?

 そう思ってゴレムをよく見ると、頭の上に【木のコップ】を掲げていた。

 畑の傍までやって来たヒサシの背中から、ヒョイと降りたゴレム5号が【木のコップ】を僕に差し出す。


「ごむれむ!(これ、飲んで!)」


 コップの中には水が入っていた。

 森の川で汲んだ水は、ログハウスの冷蔵庫の中に入れて冷やしてあるのだ。

 暑い夏は、キンキンに冷えた飲み物が欲しくなる。

 どうやら飲み物を持ってきてくれたらしい。

 なんとも気が利くやつらだ。


「ありがとう。ゴレム5号、ヒサシ」
「ごむごむ!(どういたしまして!)」
「水分補給、大事だからね!」


 ヒサシが「わふん」と嬉しそうに吠える。

 ヒサシも人の言葉を話せるんだけど、ハクと比べて口調がちょっと若い。

 ハクは弟だって言ってたし、年齢も若いのかもしれないな。

 持ってきてくれた水をぐいっとあおる。

 冷えた水が体中に広がっていくのを感じる。


「ぷはぁ、生き返るなぁ」


 コップ片手にログハウスの前に広がる畑区画を眺める。

 整然と並ぶ畝には、色とりどりの野菜が実を付けている。

 風が通り抜けるたびに葉っぱがさらさらと音を立て、陽射しを浴びた畑はどこまでも穏やかだ。

 しかし、こうやって見ると壮観だな。

 この三ヶ月で農園の敷地は順調に広がっている。

 以前は十ほどの畝しかなかった畑も三十を超えているし、収穫した野菜を運びやすくするために道も広くした。

 植えている野菜は、主に夏野菜だ。

 トマトにナス、キュウリ、ピーマン、トウモロコシ、枝豆にモロヘイヤなど。

 苗や種は全部ゴレムたちに森から採ってきてもらった。

 トマトだけじゃなく枝豆とかモロヘイヤの苗も野生しているなんて、この森って本当に不思議だよね。

 いや、これが異世界の普通なのかな?

 そんな野菜が並ぶ畑だけど、収穫量もすごいことになってきている。

 例えば、トマト。

 収穫用に作った縦六十センチ、横四十センチ、高さ三十センチの【大きいカゴ】で六杯分ほどの量になった。

 ゴレムに数えてもらったら、なんと一三〇〇個以上。

 本当にすごい量だ。

 そのままガブリと食べたり、釣り堀で釣った魚を使った「トマト鍋」を作ってみたけど、全く減る気配がない。

 すごく美味しい野菜だけど、このままだと半分以上腐らせてしまう。

 そう考えて慌てて造ったのが「貯蔵庫」だ。

 ログハウスの隣──トイレとは逆側に小屋を建てて、そこを食べ物専用の保管庫にしている。


「れむれむ~(お屋形様~)」
「ごむむ~(今日も豊作だよ~)」


 風に乗って、ゴレムたちの声がした。

 そちらに目をやると、農作業を任せているゴレム2号と3号がカゴを頭上に高く掲げヒョコヒョコと道を歩いている。

 どうやら収穫した野菜を貯蔵庫に運んでいる最中のようだ。


「お疲れ様。僕も運搬を手伝おうか?」
「ごむむ?(え? いいの?)」
「れむごむ~(助かる~)」


 ゴレム3号から受け取ったカゴの中を見ると、ぎっしりとキュウリが詰まっていた。どれも大きくて食べごたえがあるサイズだ。

 だけど、キュウリって三日前に収穫したばっかりじゃなかったっけ?

 元々キュウリってこんなに収穫できる品種なのかな?

 それとも、農園の土がすごく良いとか?

 何にしても、豊作なのは素晴らしい。


「あ、兄上だ」


 今度はヒサシの声。

 ゴレムたちに続き、道の奥からハクが歩いてくるのが見えた。

 だけど、彼の口元を見て思わずギョッとする。

 なんと巨大なコウモリを咥えていたのだ。

 僕のそばまで来たハクは、コウモリをそっと地面に下ろす。

 大きさは一メートルほど。

 口元に鋭い牙が生えていて、ちょっと怖い。


「ど、どど、どうしたのこれ?」
「我が仕留めた。農園の周囲をうろついていたのでな」


 このコウモリは「ヴェスパー」というモンスターで、動物の血液や野菜などを好んで食べるという。

 放っておくと数十匹ほどの群れを呼んで、畑を荒らす可能性があるとか。


「念の為、こいつを狩った場所に我のニオイを残しておいた。しばらくは寄ってこないだろう」
「あ、ありがとう。助かるよ」


 ハクたちには農園の見回りをお願いしている。

 この三ヶ月の間、農園の周辺で何度かモンスターの姿が確認された。

 だが、そのたびハクがきちんと対処してくれているのだ。

 いやぁ、本当に助かるなぁ。


「ご褒美にトマトでも食べる?」
「うむ」


 ハクの尻尾がゆっくりと揺れる。

 魚が大好きなハクだけど、最近はトマトにはまっている。

 なんでも「釣った魚以上にマナが濃い」のだとか。

 美味しそうにトマトを頬張るハクと一緒に貯蔵庫へと向かう。

 こうしてのんびり農園を歩くのって、すごく癒やされるんだよね。

 とはいえ、貯蔵庫は目と鼻の先だけど。

 すぐに狼小屋と同じ丸太造りの貯蔵庫が見えてきた。

 あれが貯蔵庫だ。

 ドアを開けると、ひんやりとした空気が漏れ出してくる。

 中には収穫した野菜が満載の【大きな箱】が所狭しと並んでいた。

 その数、四十箱ほど。全部畑で採れた野菜だ。

 そんな貯蔵庫の真ん中で、カチカチに凍ったゴレムが一匹佇んている。


「お疲れ様、ゴレム4号」
「ごむむ~!(わ、お屋形様だ!)」


 ゴレム4号はパキパキと氷の破片を撒き散らしつつ、嬉しそうにぶんぶんと手を振り始めた。可愛い。

 この貯蔵庫は、いわば「巨大な冷蔵庫」なのだが、もちろん電気で稼働しているわけではない。

 ここが冷えている秘密は、このゴレムにある。

 開墾スキルの【冷却】を使ってゴレム4号を氷漬けにして、この貯蔵庫の管理を任せているのだ。

【冷却】スキルは文字通り、対象を冷やすスキルだ。

 消費SPを増やすことで、対象を凍らせることもできる。

 レベルに応じて継続時間が伸びて、今は半日くらい氷漬けの状態を維持できるんだよね。

 ちなみに、製作の【使い魔】がレベル3になると、炎や氷のゴーレムのレシピが解放されるらしい。

 だけど、【石のゴーレム】と同じく保留中。

【氷のゴーレム】を作るために必要な【氷の塩石】という素材がどこで手に入るのかわからないのだ。

 だけど、早いところ【氷の塩石】を発見したい。

 だってほら、毎回ゴレム4号を氷漬けにするのって、ちょっと可哀想だし。

 本人は「役に立てて嬉しい」って言ってるけど、ゴレム総出で森を探索してもらおうかな?

 貯蔵庫にキュウリを入れて、ゴレム2号と3号にお昼ごはん用の野菜をログハウスに運んでもらうことにした。

 僕はハクと一緒に、裏庭の神樹へと向かう。


「神樹様の世話か?」
「うん。雑草抜き程度だけどね」


 毎日の手入れが実を結んだのか、神樹は日に日に輝きを増していた。

 新芽も少しずつ大きくなり、小さな葉を開き始めている。ボロボロだった樹皮も今や苔むしていて、生命力がみなぎっている感じがする。


「ふむ。精霊も元気に飛び回っているな」


 ハクが神樹を見上げ、感慨深そうに言った。


「精霊? ハクには見えるの?」
「うむ。火、水、土、風の四大元素精霊がそこら中にいる」
「へぇ、そうなんだ」


 改めて辺りを見渡してみたけれど、それらしきものは見当たらなかった。

 ううむ。ひょっとすると森の動物にしか見えないのかな?

 だけど、精霊が飛び回ってるってことは、神樹や森が元気になってきている証拠なんだろうな。


「ちなみに、精霊が多いと何か良いことがあるの?」
「大気中のマナの濃度が増す。マナが濃くなれば収穫する野菜がより美味くなり、豊作になる」


 おお、それは良いことだらけじゃないか。

 というか──。


「すでに豊作が続いているのは精霊さんのおかげ?」
「かもしれんな」
「だったら精霊さんたちにお礼をしたほうがいいかもしれないね」
「いや、その必要はあるまい。なにせお前は、神樹様を蘇らせ彼らを助けているのだからな」
「……そっか」


 むしろ、豊作にしてくれているのが僕へのお礼なのか。

 何にしてもありがたいことだ。

 僕には見えなかったけど、精霊さんに手を合わせてお辞儀をした。

 嬉しそうに周囲を飛び回る彼らが、少しだけ見えたような気がした。