お詫びチートではじめる異世界農園暮らし~【製作】&【開墾】スキルで好きに開拓したら、精霊姫やモンスターが住まう最強の土地ができました~

 ここ最近、神樹の成長が著しい。

 枝に付き始めていた新芽は芽吹き、今では青々とした葉に成長している。

 枝に葉が芽生えてからは、水やり以外の世話も本格的に始めている。

 まず、以前からやってきた神樹の根を守るための雑草取り。

 これは昔に爺ちゃんに聞いたんだけど、雑草は大地の栄養を横取りするだけでなく、病気の温床にもなりかねないらしい。

 特に「カヤツリグサ」は湿った場所を好み、害虫を呼び寄せる厄介者だ。

 だからこそ丁寧に、一本も残さぬように刈り取った。

 お次に、傷んでいる樹皮の修復・保護作業だ。

 森からゴレムに採ってきてもらった「松脂」と「霊苔(マナや霊力を吸収・蓄積する苔)」をすりつぶし、幹の割れ目に丁寧に塗り込む。

 これはハクに教えてもらった方法で、こうすることで樹皮の傷を癒やし、病を寄せつけなくするらしい。

 最後に、根が張っている土を踏み固めないようにするため、神樹の周囲に【木の柵】を建てた。


「……よし。これくらいでとりあえずは大丈夫か」


 ログハウスの裏庭。

 神樹をぐるりと囲んだ柵を見渡し、僕は満足げに頷いた。

 多少いびつな部分もあるけれど、これで根っこの土がハクたちに踏み固められてしまうこともないだろう。

 もっと葉が増えてきたら、剪定をして風通しを良くしてあげるのもいいかもしれないな。


「だけど、以前とは比べものにならないくらい神々しさが出てきたなぁ……」


 神樹を見上げながら、思わず息を呑んでしまった。

 枝の間に小さな蕾が膨らんでいるし、もしかすると実をつけたりするのかもしれない。ちょっと楽しみだ。 


『神樹ポイントを350ポイント得ました』


 小さいウインドウが目の前に表示される。

 おお、350ポイントももらえたぞ。

 今日の世話は結構ガッツリやったから、貰えるポイントも多いみたいだな。

 どれどれ、現在の総SPはどのくらいになったんだろう?


 〈開墾〉
 【対話】レベル1:全ての対象と対話が可能になる、効果時間永続
 【強化】レベル7:効果時間7分
 【凝固】レベル8:強度400%アップ、効果時間永続
 【造形】レベル4:複雑度AAまでの製作が可能
 【広域化】レベル6:効果範囲6メートル、効果時間6分
 【冷却】レベル6:強度6まで発動可能、効果時間6時間

 〈製作〉
 収納カバン、石の斧、石のスコップ、石のツルハシ、石の草刈鎌、石のハンドスコップ、木のジョウロ、木のバケツ、木の箱、木のコップ、木の壁、木の柱、木の床、木の屋根、木の柵、丸太の壁、丸太の屋根、いい感じのドア、不思議なランタン、大きめの窓、大きなカゴ、大きめのタオル、大きめのブラシ、DIYセット、釣り竿、使い魔LV1

 所持SP:2250


「2250ポイントか。結構貯まったな」


 狼小屋や露天風呂作りでスキルを使いまくったけど、まだまだ余裕がある。

 スキルレベルも上がっているし、開拓がより楽になっていきそうだ。

 あらためてレシピを確認したけど、開放したレシピも増えてきている。

 とはいえ、開拓に必要不可欠なスコップやツルハシがいまだに「石」シリーズなのが心もとないけど。

 開墾スキルの【強化】や【広域化】で作業自体は進められているのだが、耐久値が低くてすぐ壊れてしまう。

 そろそろ石製品を卒業して鉄製品デビューしたいところだよね。

 鉄製品の製作に必要な【鉄鉱石】は、森の採取ついでにゴレムに探してもらってるけど未だに発見できていない。

 露天風呂問題が解決したら、僕も一緒に探しに行こうかな。


「ごむごむぅ~!(お屋形様~~~!)」


 神樹の世話を終え、縁側でのんびりしていたらゴレム2号がやってきた。

 何だか慌てている様子。


「どうしたの?」
「ごむ、れむごむ!(変なのが畑に生えた!)」
「……え? 変なもの?」


 って、何?

 畑に生えているんだったら何かしらの作物だろうけど、ゴレムも知らない変なものなんて植えてないけどなぁ……?

 とにかく来てくれというゴレム2号に連れられ、足早に畑区画へと向かう。

 農園のメインストリートの向かいに広がる、広大な畑区画。

 その一角に、ゴレムたちが集まっているのが見えた。


「ごむん!(あそこだよ!)」
「わ、わかった」


 一応、【石の草刈鎌】を神樹カバンから取り出し、ゴレムたちの元へ急ぐ。

 時折、モンスターが迷い込むことがあるから同じ類かもしれないからね。

 ゴレムたちをかきわけ、畝の前に出る。

 そこは元々ピーマンの畝だったんだけど、確かに奇妙なものが生えていた。

 女性の形を模した花──といえばいいのだろうか。

 若葉のきらめきを思わせる長い緑髪に、大輪の花を飾った髪飾り。

 草花で織られたドレスをまとい、気高くも柔らかな雰囲気を漂わせている。

 その両手は胸の前でそっと組まれ、まるで大地に祈りを捧げる巫女のように畝の上に静かに佇んでいた。


「な、なんだこりゃ?」
「ごむごむ!(植物モンスターだ!)」
「れむれむ!(いや、これは女神様だ!)」
「ごむむん!(女神様はもっと胸がでっかいよ!)」
「れむれむ……(ボクはこれくらいの大きさが好き……)」


 やいのやいのと言い合いをはじめるゴレムたち。

 いや、一体何の話をしてるのさ、キミたち。


「おお、これは珍しいな」


 と、背後から声がした。

 振り向くと、ハクが嬉しそうに尻尾を振っていた。


「知ってるの?」
「うむ。彼女はアルラウネだ」
「……アルラウネ?」
「ステンの森に住む精霊たちの象徴……いわゆる『精霊姫』だな」
「せ、精霊姫!?」


 思いもしなかったフレーズに、素っ頓狂な声が出てしまった。

 まさか、精霊のお姫様!?

 え!? なんでそんなお方がウチの農園に!?

 顔を近づけ、まじまじとその精霊姫様を見る。

 端正な顔立ちをしているし、確かに気品のようなものを感じる。


「でも、どうして精霊のお姫様が畑に?」
「本来、アルラウネのような高位精霊は、現世に現れることはない。この農園に満ちている極めて純度の高いマナが、偶然受肉の条件を満たしたのだろう」
「受肉の条件? マナが?」


 マナって魔法の根源みたいなものだよね。


「マナは自然の理と調和する『命を育む力』だ。森の奥深くに眠っていた精霊姫の意識が、生命の息吹に呼ばれ芽吹いたのだ」
「……へぇ~?」


 曖昧な返事をしてしまう僕。

 うん、全然意味わかんない。

 農園でいっぱい作物を育てているから、精霊姫様が現れたってことでオッケーなのかな?


「……ん?」


 なんて考えていると、祈りを捧げるようなポーズをしていた精霊姫様の瞼がゆっくりと開いた。

 翡翠色の瞳が、僕の視線と交錯する。

 美しい宝石のような瞳に見つめられ、ドキッとしてしまった。

 花の髪飾りや草花のドレスを着ているけれど、見た目は可愛らしい女の子なんだもん。

 ──だけど、僕以上に精霊姫様の驚きようがすごかった。


「……んぎゃぁああああっ!?」


 精霊姫様の悲鳴が轟く。

 空気が震え、砂塵が舞う。

 これはもはや、悲鳴というより衝撃波だ。

 そんな精霊姫様の叫び声をまともに受けてしまった僕やゴレムたちは、見事にひっくり返ってしまう。

 な、何この叫び声!?

 引っこ抜くと叫び声をあげる植物があったけど、もしかしてあの類!?


「……っ!? あっ!」


 尻もちをついた僕やゴレムたちを見て、精霊姫さまがハッと我に返る。


「ご、ごごご、ごめんなさい! い、いきなり殿方のお顔が近くにあったので、激しく取り乱してしまいました……っ!」


 ペコペコと何度も頭を下げる精霊姫様。

 なんというか、腰が低いというか気が弱そうなお姫様だな。

 そんな精霊姫様は、慌てて身だしなみを整えるとドレスの裾を指で掴み、敬々しくお辞儀をした。


「は、はじめまして。私、精霊姫のアルレーネと申します。ステンの森と神樹様を救っていただいたカズマ様にお礼を申し上げたく、馳せ参じました」


 どうやらアルレーネというのが精霊姫様のお名前らしい。


「え? あ、そ、そうだったんですね。わ、わざわざありがとうございます」


 何と返してよいかわからず、とりあえず深々と頭を下げた。

 実に日本のサラリーマンらしい対応だ。


「カズマ様、重ね重ね、本当にありがとうございます」


 アルレーネ様の体がふわりと宙に浮かんだ。


「森の精霊たちを代表し、貴方様に敬虔なる感謝を」


 すると彼女の周囲にキラキラと光の粒が舞いはじめ、その光はやがて無数の天使のような姿を形作る。

 それを見て、ギョッとしてしまう僕。


「あ、あれって──」
「うむ。精霊だ」


 ハクがそう答えてくれた。

 神樹の周囲に舞っているってハクは言ってたけど、これまで一度もその姿を拝めることはなかった。

 そうか。これが精霊さんか。

 精霊さんはいくつか異なる格好をしていた。

 ハク曰く、精霊には水、火、土、風の4つの属性があって、見た目が異なるのだという。

 水の羽衣のようなものをまとっているのが水の精霊で、赤いトカゲみたいな姿をしているのが火の精霊。

 ゴレムたちを小さくしたような見た目なのが土の精霊。

 葉っぱのドレスを着ているのが風の精霊だ。


「さぁみんな、舞を踊りましょう」


 アルレーネ様が精霊たちに小さく囁く。

 すると、精霊たちは彼女の傍を離れ、畑の上でくるくると踊り出した。

 まるでアイススケートのように空中を滑る精霊さんもいれば、手をとりあってワルツのようなダンスを披露する精霊さんもいる。

 な、なんだこれ。拍手を送りたくなる可愛さがある。

 そんな可愛らしい舞いを披露してくれた精霊さんの羽から、キラキラと光の粉がこぼれ落ちていく。

 その鱗粉は、穏やかな風に乗り、やがて畑の作物たちに降り注ぐ。

 と、その時だった。

 まるで精霊さんたちのダンスに呼応するように、野菜たちがざわざわと揺れ始めたのだ。

 最初はいくつかの作物の葉が揺れていただけだったが、やがて波紋が広がるように畑区画全体の作物がざわめき出す。

 な、なんだこれ?


「あ、あの、精霊姫様?」
「私のことは、アルレーネとお呼びください!」
「おわっ!?」


 アルレーネ様にギュンッと顔を近づけられ、後ずさってしまった。

 気迫が凄い。


「え、えっと……アルレーネ様、これは一体?」
「はい、精霊舞踏でございます!」


 アルレーネ様は、舞踏会の司会者のように舞いを披露してくれている精霊たちを誇らしげに見る。


「ご覧ください! 精霊たちもすごく喜んでいるでしょう!? この地のマナの純度がとても高いおかげです!」
「お、おお……そうなんですね」


 確かに精霊さんたちは、すごく楽しそうに踊っている。

 つられてこっちまで楽しくなってくるくらいだ。


「ごむむ?(お屋形様?)」


 そんな精霊さんたちのダンスを眺めていると、ゴレム1号が何かを持ってヒョコヒョコやってきた。

 彼が両腕で大事そうに抱えているのは、黄金色に輝く立派なトウモロコシだ。

 なんとも美味しそうなトウモロコシ。

 だけど、僕はそれを見て首をかしげてしまった。


「……あれ? もう実がなったの?」


 畑区画でトウモロコシを育てているけれど、まだ授粉を終わらせたばかり。

 収穫できるまであと20日近くかかるはず。


「ごむ! ごむむん!」
「え? 精霊さんたちが舞った後、一気に成長した?」
「ごむっ!」


 首がもげそうなくらい、深くうなづくゴレム1号。

 まぁ、寸胴だから首はないけど。

 他の畝を見ると、トウモロコシだけでなくトマトやキュウリ、ナスなどの野菜も一気に巨大な実をつけていた。

 その光景を見て、唖然としてしまう僕。


「な、何が起きているんですか?」
「はいっ! これが精霊舞踏の効果ですっ!」


 ドヤるアルレーネ様。 

 ちょっと可愛い。

 だけど、これはドヤってもいいと思う。

 アルレーネ様が言うには、水の精霊は流れる水を清め浄化させる力を持ち、土の精霊は大地に根付く作物の成長を促進する力を持つという。

 その精霊さんたちの力で、畑の作物が一気に成長したらしい。


「す、凄いですね。精霊さん」
「カズマ様の農場だからですよ」
「え? そうなんですか?」
「マナの純度が高いだけでなく、陽だまりのような風が吹いています。それが精霊舞踏の効力を高めているのです」
「な、なるほど……」


 納得してみたものの、いまいち良くわからない。

 マナの純度が高いのは、神樹のおかげなのかな?

 ほら、女神様が神樹の世話をすると僕の助けになるって言ってたし。


「あ、あの、カズマ様?」


 アルレーネ様が、どこか言いにくそうに切り出す。


「よ、よ、よろしければなのですが、わ、わ、私たちの滞在を許可してはいただけませんでしょうか?」
「えっ? 滞在?」


 ぎょっとしてしまった。

 もしかしてそれって……農園に住みたいってこと?


「カズマ様が作られたこの農園は森のマナを活性化させつつあります。なので、農園の発展に私たちも協力したく」
「あ、ああ、なるほど。そういうことですか」
「わ、私たち精霊は古来より人間界とは一線を画し、その営みに干渉しないことを是としてきました。なので、その……今回は特例ということで……」


 森のマナが活性化すれば、森に住む動物や精霊さんたちも元気になる。

 精霊姫たるアルレーネ様に農作業を手伝ってもらうのは恐れ多い気もするけど、彼女たちが協力してくれるなら、野菜の大豊作は間違いないだろう。

 それに、農園に住民が増えるのはシンプルに楽しそうだ。


「わかりました。そういうことであれば、歓迎しますよ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、仲間は多ければ多いほど賑やかで良いですからね」
「あ、ありがとうございます!」


 アルレーネ様の表情がぱあっと明るくなる。

 そんな彼女は、再びふわりと空中に浮かび上がると、多くの精霊たちと一緒にくるくると精霊舞踏を踊りはじめた。

 彼女たちから降り注ぐ、光の鱗粉が風にのって農園中に広がっていく。

 そんな光景を眺めていると、ハクが呆れたような声で言う。


「これは明日から収穫が忙しくなりそうだな」
「そうだね。キミも手伝ってくれるかい?」
「もちろんだ。一族総出で手伝うことにしよう」


 ハクがわふんと嬉しそうに鳴く。

 こうして僕の農園に、新たな住民が増えたのだった。