その日、キージェとクローレも村人たちと一緒に墓穴堀をし、夜は食事をともにした。

 口々に活躍を褒める村人たちのもてなしはありがたかったが、そもそもこんな事態を引き起こした張本人としては、作業に没頭して半分上の空で受け流すしかなかった。

 村人が声をかけてくる。

「それにしても、黒衣騎兵のやつら、あんたを婦女暴行犯なんて言って、注目を集めようとしてたんだな」

「本当に卑劣な犯人なのかと思ってたぜ」

「賞金が桁違いすぎて信じられなかったけどな」

 あらぬ疑いは晴れたようだ。

「おまえさん、ちょっといいかな」

 セルジオが酒を片手にふらりと話しかけてきた。

 歌や踊りで浮かれる連中から少し離れたところで二人は話を続けた。

「詳しいことはわしもわからんのじゃが、巨大化した鉤爪熊のような魔物の噂はよく耳にしておった。ギルドの回覧でも注意喚起はあったのでな」

「王都の政変や魔王の暗躍についても?」

「政治の乱れについては噂程度には聞いておったが、そこに魔王が絡んでいたとは知らんかったわい」

 セルジオはすまなそうに肩をすくめた。

「じゃがのう、おまえさんが旅を続けるなら、行く先のギルドでわしの名前を出せば協力してもらえるじゃろう。こんな小さな村のギルドじゃが、長いことやっておれば年の功ってものがあるんでのう」

「助かります」

 セルジオは上機嫌に酒をあおった。

「男には守るべきものがある。それが誇りか、女か、思い出か。男はいくつになっても男なんじゃよ。わしを見ておれば分かるじゃろ、ホッホッホッ」

 できあがってんな、爺さん。

 キージェも苦笑しながらちびちびと酒をなめた。

 慣れない穴掘りで疲れたのか、クローレは宴会の途中で眠ってしまっていた。

「ちょっとぉ、クローレ、もっと話そうよぉ」と、酒が飲めるミーナも絡んでいるが、その目もとろんとして酔いが回ってしまったらしい。

「おい、クローレ、こんなところで寝るなよ」

 声をかけても、肩を揺すってみてもまるで起きそうにない。

 放置するわけにもいかず、「お楽しみか、おっさん」と、冷やかしの声を背にキージェが抱きかかえてクレアの宿まで運んだ。

 ふやけたような安心しきった寝顔の女をベッドに横たえ、キージェはそっと柔らかな頬に手を触れた。

 ――これが俺の「続き」で「最後」だ。

 俺じゃない誰かと、どこかで幸せになれよ。

 ドアを閉めて自分の部屋へ行こうとすると、ミュリアがついてくる。

 ――今日は一緒に寝てやらないのか。

 ――刀、貸して。

 ん?

 これか?

 キージェは錆びついたストームブレイドを素直に差し出した。

 ベッドの脇で、ミュリアがそれを白い毛にくるむようにしゃがむと、丸まって眠ってしまった。