里桜たちが、話しているところに近づいてきたのは、すらっとした長身の紳士と貴婦人だった。
里桜は記憶に新しい美しく、威厳に満ちた笑顔を思い出した。
「ローザ侯爵と令夫人でいらっしゃいますか?」
里桜の問いかけに二人はにこやかに頷いて、礼をする。
「おもてをお上げください。午餐会ではゆっくりとお話しも出来ず、残念でございましたが…。」
紳士は柔らかく笑うと、
「クレメンテ・ローザでございます。そして、こちらが妻のアウレーリアでございます。」
「アウレーリア・ローザでございます。」
「お目にかかれて嬉しく思います。」
里桜も二人に笑い返した。
「この度、レオナール国王陛下とリオ王妃陛下には、娘のテレーザに対し温かいご配意を賜りまして改めて心より感謝申し上げます。」
「礼には及びません。私たちがしてあげたいと思ったことをしたまでですから。改めまして、王太子殿下とテレーザ様のご婚約成立、誠におめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「お待ちください。」
その声に、里桜たちが振り向くと、声の主はこちらに向って颯爽と歩いてきた。
彼の足はスラリと長く、しかし青年と呼ぶには少し幼い印象だ。
会場の人々が皆、顔を伏せているのを見ても、彼の身分が誰よりも高いことが分かる。
近づいてきた彼の勲章を見て、この国の第一王子で王太子であるフェデリーコなのが分かった。
ローザ候夫妻も顔を伏せ、ロベールやジルベールたちも皆、顔を伏せた。
「お初にお目にかかります。私はゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレン七十四代国王レオナール・エイクロンの妃、リオ・エイクロンでございます。」
里桜が礼の体勢を取ると、フェデリーコは ‘おもてを上げよ’ と声をかけた。里桜は黙って体勢を戻す。
すると、その態度に側近らしき若者たちが心配そうに彼を見つめていた。
「王太子殿下のフェデリーコ様でしょうか?」
「私が、ゲウェーニッチの王太子フェデリーコだ。あなたのことを少し調べさせて頂いた。」
他国の人間が、結界の修復をするなどと、この国の国王の許可をもらっていても、内々には反対をする者もいるだろうとは里桜も想像をしていた。
そう言う貴族たちが里桜が何か謀をしていないか監視を付けたり、色々と調べ回るであろう事も想像の範囲内だった。
「あなたは数年前に召喚され、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンへやって来た渡り人のうちの一人。そして、本来婚約していたのは同じ日に召喚された渡り人で救世主であったトシコだった。しかし、彼女が魔物の発現で戦死し、代わりにあなたが王妃の座についた。」
里桜が、細かいところを訂正するべきか否か考えていると、彼はそれを無言の肯定と捉えたようだった。
「あなたが王妃になってから、貴国には沢山のことが起こった。我が従姉妹で、レオナール陛下の側妃アリーチェの幽閉、別の側妃の急死、第一王子の王籍降下。」
フェデリーコが何を言おうとしているのか汲みかねていると、
「全てが、あなたの都合の良いようになっている。そして、我が婚約者。届け出上はローザ侯爵家の第一子として認可されているが、レオナール陛下にもテレーズと言う名の王女がいた。」
「止めなさい。」
フェデリーコの独演を止めたのは、カルロだった。
「国賓として我が国へ来て下さった王妃陛下に何と言う無礼を。」
「父上は、彼女が何を企んで我が国に来ているのか知らないのですかっ。」
「王太子が騒がせてしまい、舞踏会をお楽しみの方々には、申し訳ないことをした。引き続き、舞踏会をお楽しみ下さい。」
カルロはハキハキとした声で、会場に伝えると、
「フェデリーコお前は来なさい。リオ王妃陛下もご一緒に。」
里桜は頷いて、カルロの後を歩くが、フェデリーコは釈然としない様子で、その場に立っている。
「王太子、さぁ参りましょう?」
王后のマウラは優しくフェデリーコに話しかける。
皆の視線を受けて、フェデリーコは歩き出した。
里桜は記憶に新しい美しく、威厳に満ちた笑顔を思い出した。
「ローザ侯爵と令夫人でいらっしゃいますか?」
里桜の問いかけに二人はにこやかに頷いて、礼をする。
「おもてをお上げください。午餐会ではゆっくりとお話しも出来ず、残念でございましたが…。」
紳士は柔らかく笑うと、
「クレメンテ・ローザでございます。そして、こちらが妻のアウレーリアでございます。」
「アウレーリア・ローザでございます。」
「お目にかかれて嬉しく思います。」
里桜も二人に笑い返した。
「この度、レオナール国王陛下とリオ王妃陛下には、娘のテレーザに対し温かいご配意を賜りまして改めて心より感謝申し上げます。」
「礼には及びません。私たちがしてあげたいと思ったことをしたまでですから。改めまして、王太子殿下とテレーザ様のご婚約成立、誠におめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
「お待ちください。」
その声に、里桜たちが振り向くと、声の主はこちらに向って颯爽と歩いてきた。
彼の足はスラリと長く、しかし青年と呼ぶには少し幼い印象だ。
会場の人々が皆、顔を伏せているのを見ても、彼の身分が誰よりも高いことが分かる。
近づいてきた彼の勲章を見て、この国の第一王子で王太子であるフェデリーコなのが分かった。
ローザ候夫妻も顔を伏せ、ロベールやジルベールたちも皆、顔を伏せた。
「お初にお目にかかります。私はゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレン七十四代国王レオナール・エイクロンの妃、リオ・エイクロンでございます。」
里桜が礼の体勢を取ると、フェデリーコは ‘おもてを上げよ’ と声をかけた。里桜は黙って体勢を戻す。
すると、その態度に側近らしき若者たちが心配そうに彼を見つめていた。
「王太子殿下のフェデリーコ様でしょうか?」
「私が、ゲウェーニッチの王太子フェデリーコだ。あなたのことを少し調べさせて頂いた。」
他国の人間が、結界の修復をするなどと、この国の国王の許可をもらっていても、内々には反対をする者もいるだろうとは里桜も想像をしていた。
そう言う貴族たちが里桜が何か謀をしていないか監視を付けたり、色々と調べ回るであろう事も想像の範囲内だった。
「あなたは数年前に召喚され、ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンへやって来た渡り人のうちの一人。そして、本来婚約していたのは同じ日に召喚された渡り人で救世主であったトシコだった。しかし、彼女が魔物の発現で戦死し、代わりにあなたが王妃の座についた。」
里桜が、細かいところを訂正するべきか否か考えていると、彼はそれを無言の肯定と捉えたようだった。
「あなたが王妃になってから、貴国には沢山のことが起こった。我が従姉妹で、レオナール陛下の側妃アリーチェの幽閉、別の側妃の急死、第一王子の王籍降下。」
フェデリーコが何を言おうとしているのか汲みかねていると、
「全てが、あなたの都合の良いようになっている。そして、我が婚約者。届け出上はローザ侯爵家の第一子として認可されているが、レオナール陛下にもテレーズと言う名の王女がいた。」
「止めなさい。」
フェデリーコの独演を止めたのは、カルロだった。
「国賓として我が国へ来て下さった王妃陛下に何と言う無礼を。」
「父上は、彼女が何を企んで我が国に来ているのか知らないのですかっ。」
「王太子が騒がせてしまい、舞踏会をお楽しみの方々には、申し訳ないことをした。引き続き、舞踏会をお楽しみ下さい。」
カルロはハキハキとした声で、会場に伝えると、
「フェデリーコお前は来なさい。リオ王妃陛下もご一緒に。」
里桜は頷いて、カルロの後を歩くが、フェデリーコは釈然としない様子で、その場に立っている。
「王太子、さぁ参りましょう?」
王后のマウラは優しくフェデリーコに話しかける。
皆の視線を受けて、フェデリーコは歩き出した。

