「側妃のお二人が、どのような経緯で陛下の所へ嫁いでいらっしゃったかは、養父から聞きました。」
レオナールは頷いた。
「アリーチェのところには希望していた王女が生まれた。これでお互い重い負担から解放された…。」
レオナールは、ずっと里桜の手を握っている。
「アリーチェは十四で国を出てここへ来た。」
「十四歳ですか?」
里桜が驚いて聞き返すと、レオナールは取り繕う様に笑う。
「あぁ。ここへ嫁ぐ以外に選択肢がなかったんだ。アリーチェの国ゲウェーニッチでは、彼女の様な鮮やかな黄色の魔力を持つ人間を指導できる教育機関がない。」
「エシタリシテソージャの従属国だった影響からですか?」
里桜の髪を優しく撫でる。
「そうだ。それで、魔術を教えるしっかりとした教育機関のある我が国へアリーチェを留学させようとしたんだ。しかし、その動きがあの国に勘付かれてアリーチェは側妃になるよう言われた。あの国で側妃になれば男子を産むことだけが求められ、生活は必要最低限。側妃などとは名ばかりの扱いだと言われている。」
教育機関と言えば、リュカがエシタリシテソージャにも魔術を細かに指導してくれる教育機関がないから、王族や公爵家などの有力貴族はプリズマーティッシュに留学するのだと言っていた。
アリーチェ様はもしそのままエシタリシテソージャへ嫁いでいたら、魔術も教えてもらえず、ただ魔力の強い子を産むためだけに生きなくちゃいけなかったってこと?人権も何もあったもんじゃない…って
「えっ?…それじゃ、私も本当に危なかったんじゃ…」
「ん?何が危なかったんだ?」
「いいえ。何でも。それで、たった十四歳で単身ここへ来たのですか?」
「あぁ。俺の婚約者として学院に通い、卒業後に側妃になった。」
里桜の十四歳と言えば、それなりに真剣に部活をやって、恋もして、悩むこともあったけど、今思えば夢や希望のある良い時期だった。
里桜はそんな自分とアリーチェの違いを思いやった。
「アリーチェが直接そのように言う事はないが、ゲウェーニッチは魔力の乏しさに相当苦労をしているはずだ。彼女は本当に王女を欲しがっていたからな。彼女の重荷を下ろさせてやるまでに十年もかかってしまった。何も分からないまま十代で好きでもない男に嫁がなければならなかった事への償いにはならないが、この後は自由に、気ままに過ごして欲しいと願っている。一度後宮へ入ってしまえば出ることは出来ないが、テレーズが嫁ぐ時にでも一緒に祖国へ帰る方法はないのか考えているところだ。」
「そうでしたか…。」
「ベルナルダは…」
「陛下の第一側妃様で、王太后様からの指名で夜伽に召し上げられたと聞きました。」
「そうだ。ベルナルダにしても、それしか選択肢はなかったんだ。」
レオナールは、里桜の頬を優しく触った。
「母は、自分の決めたことは最後まで貫き通し、反論など許さない人だ。ベルナルダは侍女として働いていたが、母に目を付けられ、俺の夜伽に指名されてしまった。夫を亡くして一年も経っていなかった。しかし、断れば死も覚悟しなくてはならない。」
「殺されるんですか?」
「そこまではしないと思うが…借金だけしか手元にない令嬢が、放り出されても生きていく術はない。侍女が転職する時は元の雇い主が紹介状を書く。紹介状がなければ、不手際で解雇されたと見なされて、どこも雇ってはくれなくなる。自分に従わず、辞める侍女に母が紹介状を手配するとは思えない。」
「王妃に歯向かえば、路頭に迷う事になるのですか。」
「あぁ。彼女の前夫が亡くなった時、彼女は借金を返済するために家財を売ったらしい。その家財の中には彼女の肖像画が沢山あったようだ。それほどに愛され嫁いだのに相手は一年ほどで亡くなり私の夜伽に指名された。私との間に彼女の意思はなかった。望まない相手との関係はどれほど彼女を傷付けたのだろうか。ベルナルダが外界へ出ることは叶わない。借金を全額返済したことと、今の暮らしがせめてもの償いになれば良いと思っている。それ以来彼女と夜を過ごしたことはない。今は姉弟のような関係だ。」
里桜は、挨拶で会った側妃たちの態度とレオナールの言葉との引っかかりを感じながら、レオナールの方を見た。
「陛下。」
里桜はレオナールをぎゅっと抱き締めた。
「どうした?甘えたくなったのか?」
「はい。でも…陛下が説明しながら傷付いている様に感じたので。少しでも私が癒して差し上げられればと思って。」
「寝るか。」
「ん?もう眠くなりましたか?」
レオナールは頷いた。
「アリーチェのところには希望していた王女が生まれた。これでお互い重い負担から解放された…。」
レオナールは、ずっと里桜の手を握っている。
「アリーチェは十四で国を出てここへ来た。」
「十四歳ですか?」
里桜が驚いて聞き返すと、レオナールは取り繕う様に笑う。
「あぁ。ここへ嫁ぐ以外に選択肢がなかったんだ。アリーチェの国ゲウェーニッチでは、彼女の様な鮮やかな黄色の魔力を持つ人間を指導できる教育機関がない。」
「エシタリシテソージャの従属国だった影響からですか?」
里桜の髪を優しく撫でる。
「そうだ。それで、魔術を教えるしっかりとした教育機関のある我が国へアリーチェを留学させようとしたんだ。しかし、その動きがあの国に勘付かれてアリーチェは側妃になるよう言われた。あの国で側妃になれば男子を産むことだけが求められ、生活は必要最低限。側妃などとは名ばかりの扱いだと言われている。」
教育機関と言えば、リュカがエシタリシテソージャにも魔術を細かに指導してくれる教育機関がないから、王族や公爵家などの有力貴族はプリズマーティッシュに留学するのだと言っていた。
アリーチェ様はもしそのままエシタリシテソージャへ嫁いでいたら、魔術も教えてもらえず、ただ魔力の強い子を産むためだけに生きなくちゃいけなかったってこと?人権も何もあったもんじゃない…って
「えっ?…それじゃ、私も本当に危なかったんじゃ…」
「ん?何が危なかったんだ?」
「いいえ。何でも。それで、たった十四歳で単身ここへ来たのですか?」
「あぁ。俺の婚約者として学院に通い、卒業後に側妃になった。」
里桜の十四歳と言えば、それなりに真剣に部活をやって、恋もして、悩むこともあったけど、今思えば夢や希望のある良い時期だった。
里桜はそんな自分とアリーチェの違いを思いやった。
「アリーチェが直接そのように言う事はないが、ゲウェーニッチは魔力の乏しさに相当苦労をしているはずだ。彼女は本当に王女を欲しがっていたからな。彼女の重荷を下ろさせてやるまでに十年もかかってしまった。何も分からないまま十代で好きでもない男に嫁がなければならなかった事への償いにはならないが、この後は自由に、気ままに過ごして欲しいと願っている。一度後宮へ入ってしまえば出ることは出来ないが、テレーズが嫁ぐ時にでも一緒に祖国へ帰る方法はないのか考えているところだ。」
「そうでしたか…。」
「ベルナルダは…」
「陛下の第一側妃様で、王太后様からの指名で夜伽に召し上げられたと聞きました。」
「そうだ。ベルナルダにしても、それしか選択肢はなかったんだ。」
レオナールは、里桜の頬を優しく触った。
「母は、自分の決めたことは最後まで貫き通し、反論など許さない人だ。ベルナルダは侍女として働いていたが、母に目を付けられ、俺の夜伽に指名されてしまった。夫を亡くして一年も経っていなかった。しかし、断れば死も覚悟しなくてはならない。」
「殺されるんですか?」
「そこまではしないと思うが…借金だけしか手元にない令嬢が、放り出されても生きていく術はない。侍女が転職する時は元の雇い主が紹介状を書く。紹介状がなければ、不手際で解雇されたと見なされて、どこも雇ってはくれなくなる。自分に従わず、辞める侍女に母が紹介状を手配するとは思えない。」
「王妃に歯向かえば、路頭に迷う事になるのですか。」
「あぁ。彼女の前夫が亡くなった時、彼女は借金を返済するために家財を売ったらしい。その家財の中には彼女の肖像画が沢山あったようだ。それほどに愛され嫁いだのに相手は一年ほどで亡くなり私の夜伽に指名された。私との間に彼女の意思はなかった。望まない相手との関係はどれほど彼女を傷付けたのだろうか。ベルナルダが外界へ出ることは叶わない。借金を全額返済したことと、今の暮らしがせめてもの償いになれば良いと思っている。それ以来彼女と夜を過ごしたことはない。今は姉弟のような関係だ。」
里桜は、挨拶で会った側妃たちの態度とレオナールの言葉との引っかかりを感じながら、レオナールの方を見た。
「陛下。」
里桜はレオナールをぎゅっと抱き締めた。
「どうした?甘えたくなったのか?」
「はい。でも…陛下が説明しながら傷付いている様に感じたので。少しでも私が癒して差し上げられればと思って。」
「寝るか。」
「ん?もう眠くなりましたか?」

