カラフの街はとても小さいが、町全体に歴代王と王妃の墓があるために、廃れた町というのでもなかった。そこに、レオナール王と里桜王妃の紋章付き馬車がそれぞれ止まった。
里桜が馬車の中で待機していると、女性の黄色い声が響き渡る。見物の若い女性の様だ。レオナールが馬車から降りてきたのだろう。
続いて従者の合図で里桜も馬車から降りる。里桜が地面から視線を上げると、そこには笑顔で手を差し出すレオナールがいた。儀礼服に身を包んで、いつもよりしっかりと髪型もセットされている。絵本から飛び出してきたみたいな基本の王子様スタイルに思わず笑ってしまった。
「リオ。キレイだ。」
∴∵
廟は緩やかな二十段ほどの階段を上ったところにあり、ドレスで上がるのはかなり大変そうだ。通常男性の王族が妃となる女性と結婚する時は階段下に用意された献花台へ花を供えるが、レオナールは国王なので廟の中へ入って花を供える。レオナールは一歩ずつ登っていく里桜の歩調に合わせる様にゆっくりと上る。
上がりきったところで、従者がレオナールと里桜にそれぞれ花束を渡す。
この花束に決まりはないが、国王の場合は自身の色で花束を作り、王妃となる女性は相手の色と合う色で花束を作るのが通例になっていた。
今回レオナールは真っ赤な花束を作った。そのうち数輪のバラは里桜が朝に手摘みしたものだ。そして里桜は真っ白の花束にした。こちらも花束のうち何輪かの八重咲きのガーデニアはレオナールが手摘みしたものだった。
二人で廟の中へ入る。ここからは王と王妃しか入ることを許されない神聖な場所となっている。
∴∵
たっぷり三十分ほど、祈りを捧げて二人は廟から出てきた。レオナールはしっかりと里桜の手を握っている。それを見たアルチュールは深いため息を吐く。
階段下には臣下が集まっている。その中にはレオナールの側妃の二人も混ざっていて、里桜は驚いたが平静を装った。
そこで、レオナールが集まってくれたことの感謝と、本日成婚した事を報告した。二人が階段を降り始めると拍手で迎える。レオナールと里桜はみんなに見送られて用意された四頭立ての大きな馬車で廟を後にした。
街に出ると、通りには沢山の人が見物をしていた。手にはみな、女神の象徴の白いアイリスを持っている。里桜は左右にゆっくりと手を振る。レオナールも笑顔で手を振るが、もう片方の手はしっかりと里桜の手を握っている。
そして、二時間ほどかけて二人は王宮へ着いた。里桜は少しだけ身なりを整え、午餐会が始まった。
里桜はレオナールの隣の王妃の席に着き、レオナールの父シャルルが挨拶をして宴は始まった。里桜の隣には王太后が座り、レオナールの隣にはシャルルが座っているが、姿は公爵の出で立ちだ。
これは、存命中にレオナールに譲位をしたので、王位を放棄したことになり、ただの公爵の扱いになっているためだった。しかし、母のアデライトは一緒に王族を退くことはせず、そのまま前王の后、王太后として後宮に残っている。そのような気の休まらない午餐会は二時間続いた。
∴∵
午餐会の次は臣下の挨拶だ。玉座の間にレオナールと里桜は座り、順番に入ってくる貴族たちの挨拶を受ける。数十人を一組にして一時間半かけ、間に休憩を挟みながらこれを三組、五時間続ける。
その後は、今後レオナールや里桜の身の回りの世話をする侍従、侍女、護衛の騎士たちの挨拶。
アルチュールやリナ、アナスタシアなど紹介の必要のない者も出自からすべて自己紹介をする。騎士もレオナールの護衛騎士には変更はなく、見知った者たちばかりだ。里桜の護衛には、ヴァレリーとコンスタンの小隊が交代で二十四時間の警護をすることになったが、こちらも外遊の仲間で今更自己紹介など必要はない。こんな状態で、挨拶が終わったのは、夜の十時過ぎだった。
∴∵
その後は、二人での儀式になるが、夫婦になって初めての食事にも色々と作法があり、食事の給仕もこの儀式のためだけに選ばれたメイドが行い、料理も素材や数にこれからの繁栄を祈願した縁起物で作られている。その意味や願掛けの言葉を、皿に盛り付ける度に説明する。普段は二時間くらいで済ませる食事も、三時間かかり、夜の寝支度を始めたのは日付が変ってからだった。
「本日のお世話を致します、デボラとマノンと申します。」
「お願いね。」
「では、湯を張って参ります。」
里桜が馬車の中で待機していると、女性の黄色い声が響き渡る。見物の若い女性の様だ。レオナールが馬車から降りてきたのだろう。
続いて従者の合図で里桜も馬車から降りる。里桜が地面から視線を上げると、そこには笑顔で手を差し出すレオナールがいた。儀礼服に身を包んで、いつもよりしっかりと髪型もセットされている。絵本から飛び出してきたみたいな基本の王子様スタイルに思わず笑ってしまった。
「リオ。キレイだ。」
∴∵
廟は緩やかな二十段ほどの階段を上ったところにあり、ドレスで上がるのはかなり大変そうだ。通常男性の王族が妃となる女性と結婚する時は階段下に用意された献花台へ花を供えるが、レオナールは国王なので廟の中へ入って花を供える。レオナールは一歩ずつ登っていく里桜の歩調に合わせる様にゆっくりと上る。
上がりきったところで、従者がレオナールと里桜にそれぞれ花束を渡す。
この花束に決まりはないが、国王の場合は自身の色で花束を作り、王妃となる女性は相手の色と合う色で花束を作るのが通例になっていた。
今回レオナールは真っ赤な花束を作った。そのうち数輪のバラは里桜が朝に手摘みしたものだ。そして里桜は真っ白の花束にした。こちらも花束のうち何輪かの八重咲きのガーデニアはレオナールが手摘みしたものだった。
二人で廟の中へ入る。ここからは王と王妃しか入ることを許されない神聖な場所となっている。
∴∵
たっぷり三十分ほど、祈りを捧げて二人は廟から出てきた。レオナールはしっかりと里桜の手を握っている。それを見たアルチュールは深いため息を吐く。
階段下には臣下が集まっている。その中にはレオナールの側妃の二人も混ざっていて、里桜は驚いたが平静を装った。
そこで、レオナールが集まってくれたことの感謝と、本日成婚した事を報告した。二人が階段を降り始めると拍手で迎える。レオナールと里桜はみんなに見送られて用意された四頭立ての大きな馬車で廟を後にした。
街に出ると、通りには沢山の人が見物をしていた。手にはみな、女神の象徴の白いアイリスを持っている。里桜は左右にゆっくりと手を振る。レオナールも笑顔で手を振るが、もう片方の手はしっかりと里桜の手を握っている。
そして、二時間ほどかけて二人は王宮へ着いた。里桜は少しだけ身なりを整え、午餐会が始まった。
里桜はレオナールの隣の王妃の席に着き、レオナールの父シャルルが挨拶をして宴は始まった。里桜の隣には王太后が座り、レオナールの隣にはシャルルが座っているが、姿は公爵の出で立ちだ。
これは、存命中にレオナールに譲位をしたので、王位を放棄したことになり、ただの公爵の扱いになっているためだった。しかし、母のアデライトは一緒に王族を退くことはせず、そのまま前王の后、王太后として後宮に残っている。そのような気の休まらない午餐会は二時間続いた。
∴∵
午餐会の次は臣下の挨拶だ。玉座の間にレオナールと里桜は座り、順番に入ってくる貴族たちの挨拶を受ける。数十人を一組にして一時間半かけ、間に休憩を挟みながらこれを三組、五時間続ける。
その後は、今後レオナールや里桜の身の回りの世話をする侍従、侍女、護衛の騎士たちの挨拶。
アルチュールやリナ、アナスタシアなど紹介の必要のない者も出自からすべて自己紹介をする。騎士もレオナールの護衛騎士には変更はなく、見知った者たちばかりだ。里桜の護衛には、ヴァレリーとコンスタンの小隊が交代で二十四時間の警護をすることになったが、こちらも外遊の仲間で今更自己紹介など必要はない。こんな状態で、挨拶が終わったのは、夜の十時過ぎだった。
∴∵
その後は、二人での儀式になるが、夫婦になって初めての食事にも色々と作法があり、食事の給仕もこの儀式のためだけに選ばれたメイドが行い、料理も素材や数にこれからの繁栄を祈願した縁起物で作られている。その意味や願掛けの言葉を、皿に盛り付ける度に説明する。普段は二時間くらいで済ませる食事も、三時間かかり、夜の寝支度を始めたのは日付が変ってからだった。
「本日のお世話を致します、デボラとマノンと申します。」
「お願いね。」
「では、湯を張って参ります。」

