この国の王族の結婚式は、初代の王と王妃が眠っていると言われている廟へ行き、そこに花を供えて結婚の報告をした後、集まった臣下の前で成婚の宣言をする事を言う。
 その後、通常は国民へ披露するために廟のあるカラフと言う町から王都の中心部をパレードして結婚の儀式は終わる。
 しかし、今回は里桜のパレード嫌いを考慮してパレードは中止されたと里桜は聞かされていた…のだが、予定表には王宮を通り過ぎ中央広場を経由して王宮に戻る、計九㎞を屋根のない馬車で移動すると書いてある。

「ねぇ、リナ、アナスタシア。今日の日程のことだけど。」
「はい。何でしょう?」

 アナスタシアは快心の笑顔を里桜に向ける。

「アナスタシアは、私がパレード嫌いだからパレードは中止したと言っていたけど?」
「はい。ですから、パレードは致しませんよ。」
「屋根のない馬車で移動することをパレードと言うんじゃないの?」
「いいえ。カラフから王宮まで、屋根のない馬車での移動です。」
「直接帰れば、三㎞の距離を中央広場まで行って、帰って来るのは、移動ではなくパレードでは?」
「少し遠回りをした移動です。王宮での諸々の準備がございますので。少し、遠回りを致しまして、時間稼ぎを。その際にリオ様には街の景色を楽しんで頂こうと。」

 アナスタシアの笑顔は揺るがない。
 自分の今までの行いを考えれば、我が儘放題で、リナにもアナスタシアにも苦労と心配をかけてきた。しかも、王妃となる人間がパレードの一つも笑顔で出来ないとなると、国民的にはどうだろうか…。自分が国民ならば?見たい…か。

「うん。わかった。屋根のない馬車で移動する。」
「はい。」


∴∵


 ウェディングドレスは、デコルテから袖、トレーンの先までが繊細なレースで出来ている、総レースのドレスだった。
 そして、ティアラは王家代々のものではなく、今回のためにレオナールが作らせた物だという。

「開けますね。」

 アナスタシアが声をかけ、里桜とリナが頷く。箱が開くと、一粒の大きなルビーが中央にある、銀細工がとても繊細なティアラだった。里桜とリナは絶句する。

「これ、本物の宝石なのよね?」
「これは、先代の国王が譲位なさるときに陛下へ贈られたルビーだと思います。自分の装飾品を作る様に言われたと聞いていたのですが、リオ様のティアラにされたのですね。」
「銀細工も繊細で綺麗だけど、この、沢山付いているのもダイヤ?」
「はい。いくつかの古いもう使われていないティアラを分解した宝石で作られています。」
「そう。そうやって形を変えても受け継がれていくのは素敵ね。」
「このティアラが、リオ様の第一ティアラになります。」 

 アナスタシアは優しく笑う。

「では、そろそろお着替えを致しましょう。」