一階に近付くにつれ、忘れていた、刺すような冷たい空気が、足元から私の身体を包み込んで行くのが分かる。


こんなに、ここの空気って冷たかったかな……。


でも、ここまで来たら玄関前ホールはすぐそこ。


歌も聞こえてこない。


行くなら、今しかなかった。


この距離なら、万が一「赤い人」に見つかっても絶対大丈夫。


しがみ付かれても、歌を唄い終わるまでは殺されないはずだから、それまでにこのカラダを棺桶に納めれば良い。


そう決意し、廊下に出たけれど……その足は、事務室の前で止まってしまった。












「な……に、これ……」












緑色の光に照らされて、私の目に飛び込んで来た光景は……。


床も天井も血で染まった、異様なものだった。


床には、分かるだけで3人。


裸で上半身と下半身が切断されているのは二見。


「昨日」の留美子と同じような殺され方をしている。


そして、その留美子と思われる亡骸の肉片も、辺りに散らばっていて、細く長い指が「助けて」と言っているかのように、私の方に向いている。