伊勢は「赤い人」について、何かを知っているに違いない。


気付けば白い手も消えていて、とりあえずは助かったという安心感に私は包まれた。


「ありがと……伊勢君、私の言う事が嘘だって思わないの?」


「あぁ? お前、一度も振り返らねぇだろ? だったら、『赤い人』を見たんだろ?」


背中を向けたままで尋ねた私に、そう答える伊勢。


たったそれだけで、私の言う事を信じてくれるの?


「ほら、校門を出るまで、振り返るんじゃねぇぞ」


私の頭にポンッと手を置いて、ドアを開けてくれる。


私が開けようとしても、開かなかったのに……。


何か不気味なものを感じながらも、私はそこから外に出た。


私が押しても開かなかったドアを、伊勢は簡単に開ける事ができた。


 「赤い人」は、私を振り返らせようとしているけど、「赤い人」を見ていない他の人は関係がないって事なのかな?


校門に向かって歩きながら、私はどうしても気になっていた事、伊勢が探しているという明日香って人の事をききたくなった。


「伊勢君は……明日香って人を探してるんじゃなかったの?」


「ああ、探した。二時間もな……でも、いなかったんだ」


少し寂しげな表情を浮かべて、遠くを見つめている。


ただの乱暴者じゃない。私の事を心配してくれて、私を助けてくれた伊勢の別の一面が見られたような気がした。


うちのクラスには、他にもひどいやつがいるけど……思い返せば、伊勢は私の事を無視なんてしてなかったな。