『「赤い人」が、西棟三階に現れました。皆さん気を付けてください』
校内放送が流れて、私の心臓がドクンと音を立てたのが分かった。
こ、この上の階に「赤い人」が現れたの?
「昨日」といい、今日といい、どうして私がいる校舎に現れる事が多いのだろう……。
今から私はトイレを調べなきゃいけないっていうのに。
でも、フロアが違うから大丈夫かな?
教室のドアを少し開けて、廊下の音に耳を澄ます。
「昨日」、トイレの中で聞いたあの唄も、笑い声も聞こえない。
低く、うなるような声で歌っているから、聞こえにくいだけかもしれないけれど。
移動するには好都合だ。
私は、少し開いたドアの隙間に身を滑らせて教室を出ると、隣にある男子トイレに駆け込んだ。
東棟一階のトイレと、造りはたいして変わらない。
「昨日」もやった事だから、調べるのも手慣れたものだ。
だけど、ろくに掃除もしていないようなこのトイレは匂いがひどい。
鼻をツンと突くような匂いが、早くこの場から立ち去りたいと思わせて、調べる速度を上げさせた。