「あ、あぁ……」



私は……赤い人に何をされるのだろう。


振り返ったらバラバラにされてしまうんだっけ。


腰が抜け、床に座り込んでしまった私に、逃げる事なんてできない。


「赤い人」に殺されてしまうんだ。


今まで生きてて、良い事なんて何もなかったな……。


諦めた私の肩に、先程と同じように手が置かれた。








「おい、何してんだ?……ん? お前、相島か?」






この声は……伊勢?


さっきは生産棟にいたのに、もうここまで戻って来たの?


違う! 


さっきはだまされそうになったけど、もうだまされない。


私は、震える手で、肩に置かれた手を払いのけた。


「うぉい! 何だよ! 叫んでたから声をかけただけなのによ!」


頭の上から聞こえたその声と、払いのけた時に触れた手の大きさは、さっきの「赤い人」とは違う。






もしかして……本当に伊勢なの?






「伊勢君、助けて……『赤い人』を見ちゃったから……ドアが開かないの」


少し安心したせいか、涙声になってしまった。


普通の人なら、こんな話を信じてはくれないだろう。


特に私の言う事なんて。


「なんだよ、結局見たのかよ……俺の周りはこんなのばかりか?」


そう言い、私の脇に腕を入れて、立ち上がらせてくれた伊勢。


やっぱり……驚きも、疑いもしない。