「お、おーい。相島」
帰宅をするために、生徒玄関で靴を履き替えていた時、私は背後から声をかけられた。
その声に、ゆっくりと振り返って見てみると……そこには翔太の姿。
少しぎこちない笑顔で、軽く私に手を挙げて見せる。
「うん? どうしたの、浦……翔太」
まだ「翔太」とは自然に口から出ない。
呼び捨てにするだけでも、ヒヤッとしてしまうくらい抵抗がある。
「いや……家が同じ方向だろ? い、一緒に帰らないか?あ、ほ、ほら……『カラダ探し』の事もあるからさ」
なんだか慌てて弁解するような翔太に、私もどうして良いか分からない。
「え! あ、うん……そ、そうだね。朝も一緒に登校したし……」
成り行きで、誰かと校門の先のT字路まで一緒に歩いた事はあるけれど、一緒に帰ろうなんて言われた事がないから、なんだか恥ずかしい。
翔太が靴を履き替えるのを待って、一緒に玄関のドアを抜けて。
何か話すのかな? と思っていたけれど、結局、私が家に着くまで、どちらも話をする事はなく……。
「また、後でね」
「あ、ああ……」
それだけ言葉を交わして、翔太と別れた。