「あ、相島……す、すまん!!一瞬、お前が明日香に……本当にすまん!」


私に手を合わせて、何度も頭を下げる伊勢に、私は何も言えなかった。


いや、私が悪いのだから、謝るのは私の方だ。


それに……伊勢が涙を見せるなんて。


それほどまでに明日香の事を好きなんだと思うと、私はその想いを汚してしまったんじゃないかと後悔した。


「わ、私の方こそごめんね……伊勢君は、明日香の事が好きなのに」


申し訳なくて……うつむいたままボソボソと呟いた私に、伊勢は優しく頭をなでてくれた。


ゆっくりと顔を上げると……なんだか恥ずかしそうに視線をそらしている。


言葉はなかったけど、それは、不器用そうな伊勢の精一杯の優しさなのだと理解した。


あの日、放課後に伊勢に声をかけられてから……私は逆らう事のできない流れに飲まれているのだと、この時思った。


伊勢に謝った後、屋上の入り口の方に戻ると、留美子が好奇の視線を私に向けていた。


この様子だと、抱き締められたところも見られただろう。


「ちょっとちょっと! どうなってるのよ、いきなり抱き付かれるなんて!」


そんなの、私が知りたいくらいだ。


一瞬、明日香に見えた……みたいな事を言っていたけれど。