開いていた生徒玄関のドアが音を立てて、私の目の前で閉じられたのだ。


「う、嘘……ど、どうして!」



何が何だか、訳が分からずに、ドアに駆け寄った私はさらに絶望を味わう事になる。


ドアが……開かない。


一ヶ所だけじゃない。隣のドアも、その隣も、私を外に出すまいという意思が働いているかのように次々と閉じて行く。


「赤い人」を見た者は、校門を出るまで決して振り返ってはならない。


簡単な条件のはずなのに、こんなに難しいの?


どうしようもない現実に落胆している、私の背中に、何者かの視線が突き刺さるのを感じた。







誰かが……私を見ている。





もしかして、「赤い人」が追いかけて来たの?


でも、噂だと、振り返らなければ大丈夫なはず。


胸が……苦しい。


怪談が好きだったのは、私にそんな事が降りかからなかったからで、まさか自分の身にこんな事が起こるなんて。


背中に感じる恐怖が、心臓をつかんでいるような苦しみを私に与える。







シャッ。





シャッ。






視線の主が、私に近付いて来る足音が聞こえる。


「だ、誰か! ここを開けてよ!! 助けて!」


振り返る事ができない恐怖と、背後に迫る足音に、私はドアを叩いた。


ガラスが割れるかもしれないけど、そんな事を言っている場合じゃない。


そんな必死の訴えもむなしく、目の前のドアは軽く前後に揺れるだけ。


このままじゃ……私は殺されるかもしれない!


ドアの取っ手を持ち、力いっぱい押そうとした時。







うつむいた私は、ドアの取っ手をつかむ白い手が、私の背後から脇の下を通って伸びている事に気付いたのだ。







背筋に走る悪寒に震えて、もう叫ぶ事もできない。