喜ぶ美紀を前に、棺桶の足元に立っている袴田に、目で合図を送る。


小さくうなずいて、美紀に伸ばした袴田の手がその服をつかんだ。


「ん?」と背中を気にして、振り返ろうとした美紀よりも早く、袴田が服を引っ張り、美紀を棺桶の中に叩き付けるように入れたのだ。


「痛い!やめて……放して!!あああああっ!!」


「黙れクソガキが!!テメェなんぞに人生決められてたまるかよ!!棺桶の中で死んでろ!!」


美紀の叫びに、袴田がそう被せて言った瞬間……玄関前ホールの壁に、大きな亀裂が走った。


「高広ぉ!翔太ぁ!ボサッと見てねぇで押さえつけろ!」


棺桶から必死に出ようと暴れる美紀の背中を押さえつけて、袴田が吠える。


「あ、ああ……でも、なんだこのヒビは……」


言われるがままに美紀を押さえるふたり。


翔太が呟いたように、私が見た亀裂が壁だけではなく、辺り一面に……床やガラスにまで。


これが、八代先生が言ってた圧縮された時間の解放?


いや……良く見ると、壁に亀裂が走っているわけじゃない。


そこに手をかざすと、私の手にもヒビが。