「……ちぎってもあかくなる~」
この歌を聞くととたんに不安な気持ちになる。
「赤い人」と話をするなんて、何を話すかも考えていないのに……。
「あかがつまったそのせなか~」
その声の発生源に、徐々に近づいていた。
「わたしはつかんであかをだす~」
工業棟の廊下から聞こえる歌声が、こちらに向いていない事を確認した私は、飛び出すタイミングを見計らっていた。
袴田には「赤い人」と話し合うなんて言ったけど、本当に何を話せば良いんだろう。
美子は妹を失って、相当悲しかったはずだ。
その気持ちは私にも分かるから、それを伝える事ができれば……。
曲がり角の壁に背中を付けて、音を出さないように、ゆっくりと深呼吸。
その横で、「早く行け」と合図をしているかのように、私の靴を軽く蹴る袴田。
協力をしているわけじゃない……ただ、「赤い人」に用があるという事だけ。
その目的も、高広の邪魔をするだけなのだから、本当は止めなければならないのかもしれない。
でも、袴田は高広がどこにいるか分からないはず……。