「……ってあかくなる~」
かすかに……その歌声が聞こえた気がした。
空耳かと思うくらい小さな歌声だったけど、確かに聞こえた。
それが今はほとんど聞こえなくなっている。
どこかの教室に入ったのか、それとも工業棟の廊下を南側に歩いて行ったのかは分からないけど……こちらに向かっているわけではないのは確かだ。
「こっちには来てないみたいだね、行くなら今しかないよ。『赤い人』は地獄耳だから、物音を立てないでね。しゃべるのもダメだよ」
「チッ!俺に命令すんじゃねぇ!それに、なんで俺がテメェと一緒に行動しなきゃならねぇんだ」
「だから、静かに!」
不思議だった……「昨日」までは恐怖の対象でしかなかった袴田と、成り行きとは言え行動を共にする事になるなんて。
生産棟から工業棟までの渡り廊下。
そこを足音を立てないようにゆっくりと歩きながら、渡り廊下の真ん中辺りからまた聞こえ始める歌声に、心臓の鼓動が早くなる。