「あ~かいふ~くをくださいな~」
そんな唄を歌いながら、ドアの向こうにいた「赤い人」は、トイレから出て行った。
あれから、どれくらい経ったのか……。
時間にして数分だと思うけど、私は放心状態でトイレの壁を見つめていた。
足元には二見の生首、手にしていた携帯電話を見ると、時計は表示されておらず、電波状態は圏外。
体感で5分くらいはその場にいただろう。
気が狂いそうになる寸前で、なんとか踏みとどまる事はできたけど……。
一刻も早くこの場から逃げ出したいのに、腰が抜けて立ち上がる事ができない。
でも、いつまでもこんな所にはいたくないから。
便器のふたに手を突き、無理矢理、体を起こした。
膝がガクガク震えて、ろくに歩く事もできそうにない。
それでも、ドアのロックを解除して、ゆっくりと開いた。
壁にもたれかかり、身体を支えながら一歩、また一歩と個室から出た私は、そこに広がる光景に、気を失いそうになった。