『「赤い人」が、生産棟一階に現れました。皆さん気を付けてください』
と、いう校内放送に、留美子は動揺を隠せないようで。
動揺したのは、留美子だけじゃない。
私だって、本当に伊勢の言う通りに校内放送が流れるとは思わなかったから。
「な? 言っただろうが。とにかく俺達は、カラダを探さなきゃならねぇんだよ」
「な? じゃないっての! 生産棟の一階って、すぐそこじゃない! 『赤い人』なんて、マジで言ってるわけ!?」
「騒ぐんじゃねぇよ。『赤い人』が近くにいたら、少しでも物音を立てたら襲ってくるぞ」
そう言いながら、落ち着き払った態度で、金庫や机、キャビネットを次々と調べて行く伊勢。
私と留美子が、状況も飲み込めずにただ立ち尽くしているだけだというのに。
「伊勢君……どうしてそんなに……冷静なの?」
暗い校長室の中で、携帯電話の画面の光を頼りに、部屋中を探索している。
「コツさえつかめば、『赤い人』は怖くねぇよ。動くな、音を立てるな、息をするな、見つかるな。これだけで、殺される確率はかなり低くなるぜ」
ずいぶん簡単に言ってくれるけど、殺されるって何?
伊勢の話は、人に伝えようという気がないように思えてならない。
その意味が分からないまま、私達は伊勢が調べているのを、ただ見ている事しかできなかった。
前回は校長室にあったカラダも今回はなかったようで、部屋を調べ終えた伊勢は、フウッとため息を吐いて頭をかいた。