こんな小さな音でも、「赤い人」には聞こえるかもしれないから。


それにしても、こんな所にガラス?


そう言えば、家政学室のドアとドアの中間、中央部分には生徒の作品を展示しているショーウインドーがあるんだった。


服を着たマネキンに、日中でも驚いた事がある。


そんな音がしたのに、「赤い人」の歌はまだ聞こえない。


どこかの部屋に入っているのだろう。


フウッと安堵の吐息を漏らし、ポケットから携帯電話を取り出した私は、ショーウインドーを照らした。










「ひっ!!」












短い悲鳴の後、ガタガタと震え始める身体。


そのガラス戸の中には……マネキンと一緒に「赤い人」が入っていたのだ。


どおりで、唄も聞こえないはずだ。


「赤い人」はすでに私を見つけて、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべていたのだから。












「キャハハハハハハッ!」












私と目が合った瞬間、その目を見開いて笑い声を上げる「赤い人」。


内側からバンバンとガラス戸を叩き、今にもそれを割って飛び出して来そうなのに……その光景に恐怖して、判断が遅れた。