あれだけボコボコにされた袴田ひとりが相手なら、伊勢がなんとかするだろうけれど、「赤い人」まで付いていると、迂闊に相手をするわけにもいかない。


袴田が、「赤い人」に殺されてくれるのが一番良いのだ。


「悪い知らせは……二見がこっちに来てるぞ。美雪、手は縛ってるよな?」


翔太のその言葉に、右手を携帯電話で照らしてみるけど……ネクタイは縛られたまま。


「うん……大丈夫……」


と、私がそこまで言った時、右手の中指から血が一滴、床に落ちたのだ。


ネクタイで縛られた右手……それで傷口はふさがれているはず。


だけど一ヶ所、私でも気付かなかった場所。


中指の、人差し指側に小さな切り傷があったのだ。


手の甲の痛みが強くて見落としていた。


ジワッと滲み出るような出血で、ポタポタと垂れているわけではない。


第三実習室では、携帯電話を握っていたり、制服で血を拭いていたから垂れなかったのだろう。


でも、袴田から身を隠してから、この職員室に入るまでの間のどこかに血が落ちたとしたら?