「アアアアア……」
笑い声が、うなり声に変わった。
ちょうど、このトイレの前からそれは聞こえる。
私が二見と話していた場所で、「赤い人」は止まってるの?
それほどまでに地獄耳だと、どこにいても会話なんてできないじゃない!
早く……行って!!
私はここにはいないから!
祈るように心の中で叫んでいると……二見がその恐怖からか、私の体をギュッと抱き締める。
震えているのが私の体に伝わって来る。
二見の事は嫌いだけど……怖いという気持ちは分かるから。
私も二見を抱き締めた。
「あ~かい ふ~くをくださいな~」
うなり声が歌声に変わり、ペタペタという足音も聞こえる。
でも、まだ動けない。
少なくとも廊下の角を曲がるまでは……いや、二見の靴の音を考えると、もっと遠くに行くまで待つか、二見には靴を脱いでもらわないと、すぐに見つかってしまう。
「し~ろい ふ~くもあかくする~」
徐々に遠ざかるその歌声に、少しずつ安心感が生まれる。
でも、いつもこんな時に限って物音を立ててしまうから、気を抜く事はできない。