廊下を越えた先の教室に入ろうとしていた留美子が、その足を止め、ドアを携帯電話の明かりで照らす。


窓には暗幕、プレートも掲げられていないその部屋の中を、廊下からはうかがう事はできない。


「生産棟なんて、ほとんど来ないからね……私も分からないよ」


首を傾げて、ドアに手を伸ばしたその時だった。









コツ……。





コツ……。










どこからか……足音が聞こえた。


「赤い人」じゃないのは分かるけど……革靴のような足音。


「誰か……来てるの?」


私の耳元で留美子がささやくけれど、誰が来ているのかなんて、判断ができるはずがない。


「誰かは分からないけど、とにかく隠れようよ。見つかったらまずい事になりそうだし」


そう言ってドアを開けた私は、留美子の肩を抱いて一緒に部屋に入り、ドアの横の壁際に身をかがめた。


コツコツと聞こえるその足音は、一直線にこちらに向かっているわけではない。


「なんか……迷ってる?」


率直な感想はそれだった。


「迷ってるって何? こっちに来てるんでしょ?」


ボソボソと、呟くように私に尋ねる留美子。