「やっと見つけたってのに……こんなのあるかよ」
声に出して、抑え切れなくなったのだろう。
その目から、一筋の涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。
いつもの光景なのに……私には、伊勢がどうして泣いているのか分からなかった。
伊勢の涙……それは、私が見てはいけないような気がして、思わず視線をそらす。
このまま、ここに立っていても気まずいだけ。
私は、伊勢には悪いと思いながら教室の中を移動し、自分の席に荷物を置いた。
振り向いて見ると、伊勢はまだ入り口に立ったまま。
私の席は明日香の二つ前の席で、そっちの方にしか伊勢の視線は向いていない。
やっぱり……明日香と伊勢は付き合っていて、喧嘩でもしたから昨日、探してたんだね。
椅子に座り、制服のポケットから携帯電話を取り出して、メールの受信ボックスを開いて、私はそこにある文字を見つめた。
『大丈夫か?』
伊勢が大丈夫じゃないじゃん……。
それなのに私の事を心配するなんて、何を考えてるんだろう。
乱暴者なのに……優しいんだね。
『伊勢君の方こそ、大丈夫ですか?』
初めて友達に送るメール。
緊張しながら、私は送信ボタンを押した。
その少し後に、入り口の方から激しいメタル系の音楽が流れる。
ちょっと驚いて、伊勢に視線を移した時だった。
目の前に……涙を流して立っている明日香が私を見て、ゆっくりと口を開いたのだ。