来た……「赤い人」が、準備室の中に入ってきた。
ドクンドクンと、心臓から送り出される血液が、体中を駆け巡っているのが分かるくらい、激しく動いている。
スチール製の天板に響いてしまうかと思うくらいに。
「まっかにまっかにそめあげて~」
この狭い準備室の中に、「赤い人」の低い歌声が響き渡る。
その唄もまた、私の心臓に響いて、不安を増大させた。
「お顔もお手てもまっかっか~」
バラバラになったマネキンの残骸を投げているのだろう……ガンガンと、私が乗っているこの棚にも当たり、その衝撃が体に伝わる。
いや……違う、最初はマネキンを投げていたかもしれないけど、途中から棚を叩いている。
子供の無邪気な行動と取るべきか、それとも私がここにいる事が分かっていての行動なのかは分からない。
「髪の毛も足もまっかっか~」
それでも、歌われ続けるこの唄と、体に伝わる振動が、とても大丈夫だとは思わせてくれない。
息を殺して、ガタガタと震えながら、「赤い人」が去ってくれる事だけを祈っていた。
そして……叩く事に飽きたのか、ピタリと音がやんだのだ。