あの笑い声はマネキンを見て、床に落ちたような音はしがみ付いてマネキンが倒れた音で、歌い始めて違うと気付いたのだろう。


そう考えていた時……。











「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」











突然の、耳をふさぎたくなるほどの大咆哮。


そして次の瞬間、ガシャンと、ガラスが割れるような音や、何かが壁や床にぶつかる音が、隣の部屋から聞こえた。


どうしよう……何がどうなっているのかが分からない。


この音の中なら、少しくらい音を立てた所で気付かれないような気はするけど。


逃げ場のない場所に追い詰められた恐怖と、今までに聞いた事のない「赤い人」の叫び声に対する恐怖で、私はその場から身動きが取れず、部屋を見回す事しかできなかった。


ゴンッゴンッと、隣の部屋から聞こえ続ける音に、室内を見回した私は伊勢の話を思い出した。


工業棟の一階の更衣室で、棚の上に隠れていたという話を。


きっと「赤い人」は、マネキンを全部壊すつもりだ。