伊勢以外、名前も知らない私達に、明日香のお母さんは「ゆっくりして行ってね」と言い、部屋を出て行った。


この部屋を見る限り、私達と同じくらいの年頃の娘が使ってそうな部屋……そんな事を思っていたのかもしれない。


その目には涙が浮かんでいて、とても寂しそうだった。


「明日香のお母さん、良い人だね。うちのお母さんとは全然違う……」


あんな人が、私のお母さんだったら良かったのに……。


なんて考えても仕方がないけれど、それくらい優しさを感じる。


「まあ、あんなに優しい人は、そんなにいないんじゃないか?」


明日香が使っていたであろう本棚の上にある、観葉植物を眺めながら、翔太が呟いた。


明日香の代わりに、お母さんが世話しているのだろう。


この部屋の主はいないのに、枯れる事もなく、生命が満ち溢れるように、存在感を放っている。


「なんか……この匂い、懐かしい……私、ここに来た事があるのかな?」


いつの間にかベッドの上で横になっている留美子まで、寂しそうに呟く。


懐かしさは感じるけど、思い出す事はできない。