「おい、相島!! 明日香を見なかったか!?」



誰もいなくなった教室で、窓の外を見ていた私に、そう声をかけたのは伊勢高広。


クラスの中でも乱暴者の部類に入っている……はずだったけど、なんだか最近は少し丸くなったように感じる。


それでも、私が苦手なタイプの人には変わりなかった。


急に声をかけられて、ビクッと身体が反応したのは、そのせいだと思う。


「明日香って誰? 私の知ってる人?」


「あー、くそっ! きいても分かるわけねぇよな」


私の言葉に、頭をかきながら、そう言って教室を飛び出した。


まったく、いきなり教室に入って来たと思ったら、すぐに出て行って。


騒がしいのは嫌いだ。


人と仲良くするのもあまり好きじゃない。


どうせ人は私の事なんて、そこら辺にある石ころと同じと思っているんだろうから。


こうして、ひとりでボーッと空を眺めている方が、誰かと一緒にいるより楽しい。


でも……いつ以来だろう?


誰かが私に声をかけるなんて。


少しうれしかったけれど、私を頼っていたわけじゃないから、どうでも良い事なんだけど。


そんな事考えていると……。


「相島ぁ! 言うの忘れてたぜ! もしも、『赤い人』を見たら、校門を出るまで絶対に振り返るんじゃねぇぞ!」


また伊勢が戻ってきた。


やっと静かになったと思ったのに、どうしてひとりにしてくれないんだろう?


伊勢が言う「赤い人」って、あの怪談話の「赤い人」?


そんなのいるわけないじゃん。


今までずっと、こうして放課後に残っているけど、一度も見た事なんてないのに。


「伊勢君は、そんな噂話を信じてるの? 私は大丈夫だから、早くその明日香って人を探して来なよ」


「お、おぅ。そうか……だったら良いけどよ」


そう言い、再び駆け出した伊勢。


騒がしくて忙しい奴。