「大和くんとこ順調みたいだなあ」


フレンチトーストを齧りながら、ぎりぎり見える新聞のテレビ欄を覗いていたときだ、お父さんがぼそりと呟いた。


「何が?」

「地方大会だよ。ほらほら」


テーブルの上に広げられた新聞は、県内の情報が書かれた地域版のページが開かれていた。今の時期にはこの間から始まった甲子園の地方大会の情報も載っている。


「今年も行けるんじゃないか、甲子園」

「わかんないよ。まだまだ最初のほうじゃん」


うちの学校の弱小野球部は期待を裏切らず1回戦で負けたと聞いた。でも、私立の強豪校である大和の学校は、今のところ下馬評通り勝ち進んでいるらしい。


「そんなにぺろっと簡単に行けるならみんな苦労しないって」

「まあ、今年はこの地域、どこも結構強いらしいからなあ」

「そういえば千世、今回も甲子園に見に行くの?」


わたしの布団を干していたお母さんが、庭からひょこりと顔を出した。


「大和のとこが行けたらね」

「今年はお母さんも行こうかな」

「パパも行く」

「なんか紗弥も前に同じようなこと言ってたなあ」


去年はひとりで行って、大和のところの家族と球場で待ち合わせて見たっけ。今年も行くことになったら、なんだか賑やかなことになりそうだ。


「しかし大和くんはすごいよな。もうプロ球団も注目してるらしいぞ」

「へえ、そうなんだ」

「今のうちにサイン貰っておかないとなあ」


楽しそうなお父さんに、大和のサインなんか貰ってどうするんだろうと思った。幼馴染の名前なんて飾ったって馬鹿みたいなだけだ。